贈り物小説

おいで
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普段から忙しい彼と、もうどれくらい会っていないのだろうか…。



「ハァ…」



誰もいない、SPルームで一人。

キチンと整理整頓が行き届いたデスクの椅子に腰をかける。




「皆、出ちゃってるんだ…」



いつもは、誰かしらいて。

それだけで賑やかに感じるこの空間。



「誰もいないと、余計寂しいな…」



差し入れに、と。

作ってきたクッキーを、一人ひとりの机の上に置く。



「いつも、ありがとうございます」




専属の警護は、『彼』一人だけど。

桂木班、全員に守られているのは事実で。



「よし!帰ろう!」



差し入れを置いたので、SPルームをあとにしようと踵を返す―――と、同時にドアが開いた。




「なんだ、きてたのか?」


「昴さん…!」



入ってきたのは、会いたくて、でも会えなかった昴さんで、思わず涙ぐみそうになる。



「何泣きそうな顔してんだ?」


「し、してないです!」



私は慌てて否定をして、顔を俯かせる。

このまま昴さんの顔を見ていたら、本当に泣きそうだった。



「ほら、コッチ向け」


「で、でも…」


「で、コッチにこい」


「そ、その…」




向いたら泣き出しそうだ。


行ったら離れがたくなりそうだ。



ぐるぐると渦巻く、私の我儘。

一人でそんなことを考えていると、昴さんはフッと小さく笑った。







「…おいで」






パッと顔を上げてみれば、両腕を広げて、とても優しい顔をして微笑む昴さん。


私は、自分の中に渦巻く思考を全て投げ出して彼の胸めがけて飛び込んだ。




「昴さん…ッ!」



ギュッと抱きつけば、力強い腕に閉じ込められる。

昴さんの香りが、鼻先を擽る。



「ったく、何我慢してんだよ?」


「だって…」




いつだって、私のことを最優先にしてくれる彼のことだ。

我儘を言えば、叶えてくれるだろう。


だからこそ、言いたくないのだ。彼の負担になりたくはない。




「フッ…なんつー顔してんだよ?」


「…どんな顔してますか?」



恥ずかしくて、思わず両手で顔を隠しながら昴さんに聞いてみた。



「…俺に会えて嬉しいって顔」


「…」


「俺と離れたくないって顔」


「…」


「…このまま、一緒にいたいけど、言えないって顔」




全てがお見通しで、手で覆った顔は出せそうにない。



「…我慢なんてする必要ねーだろ?」



そんな私の手を、ゆっくりと外し、目線を合わせてくれる昴さん。



「確かに忙しいけど、お前に会う時間くらいなら作るっつーの」


「でも…」


「作るって言うより、俺が会いたいだけだけどな」


「…昴さん」


「ま、お前が迷惑って時間になっちまうから迂闊には行けねーけど?」




私が気にしていることも、全て気にしないように諭してくれる彼の愛情が優しくて暖かくて。



「迷惑なんて思いません!」



私はもう一度、彼の背中に手を回す。




「何時でも…寝てる時間だって、昴さんに会いたい…」




こうして会えないのなら、夢の中で会いたいと願う。




「昴さんに会えないと…寂しい、です…」




寂しくて、寂しくて。


いつの日か、我儘すぎると煙たがられるんじゃないか―――そう不安になるくらい、寂しくて。



「バーカ、泣くな」


「…っ………」





彼の負担になって、ポイされるだなんて怖すぎる。




「お前は気にせず、思ったことを言っていいんだよ」


「…我儘な女になっちゃいますよ?」




ついでに、メンドくさい女にだってなってしまう。



「我儘?ドコが?」



抱きしめられた腕は、更に力がこもって私を逃そうとはしない。



「俺だって、夢の中でもお前と会いたい」



ねぇ、昴さん。


甘えて、いいのかな。





「…このまま、ずっと一緒にいたいです」



仕事の休憩に戻っただけの昴さんを、困らせる一言を口にした。




「…ああ」


「え…?」


「…って言っても、休憩終わったらすぐに戻らなきゃなんねーから…続きは仕事が終わってからになっちまうけどな」



そう言って、ポンポンと私の頭を撫でるその手が優しい。




「それでも、いいか?」



充分すぎるくらいに、嬉しい返答に、私は精一杯頷いた。




「…今日は、嫌って言っても離してやんねーから、覚悟しとけよ?」


「………ッ!?」




同時に、甘い宣戦布告を受けた私は、顔を真っ赤にしてコクリと頷くのだった。




『寂しい』と思っていた気持ちはドコへ行ったのやら。

気がつけば私の心の中は、昴さんの優しさでいっぱいで、溢れていた。






「昴さん、ありがとう」


「お礼なら今夜たっぷりもらうからいいよ」





疲れていることを、微塵も感じさせずに笑う彼につられて私も微笑む。





「とりあえず、今はコレで…」



そのまま、彼の唇がおりてきて。



「んっ………」




甘い口づけに、今夜訪れる甘いひと時。


期待する気持ちを押さえ込んで、昴さんの温もりに酔いしれるのだった。






*END*



2013.01.13



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