贈り物小説

おやすみの魔法
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大学の課題が山のように机の上に散乱する。

そんな中、いつもの如く私を呼びつける「おにぎり要員」の一声で訪れたドレスヴァン城。

そこで、パーティのパートナー務めも同時に熟す。




慌ただしく日々は過ぎていって…。




「…疲れた………」




時間はもうすぐ深夜0時を告げる。


ドレスヴァン城であてがわれた客室の大きなベッドが私を誘惑する。



「ダメダメ…このページまでやらなきゃ明日から更に大変になっちゃう!」




自分の要領の悪さに呆れてしまうほど、課題は一向に進んでいなかった。


…というのも。




「…せっかくドレスヴァンにきたのにな……」



おにぎりを作るように命令を下したジョシュア様には会ってお話をする時間があったというのに。



「ジャンさん…」




恋人であるジャンさんとの時間が全く以て取れていなかった。




「…ジャンさんも忙しいんだよね…?」



こうして滞在している時は、常にジャンさんがお茶を淹れに部屋まできてくれた。


それが、今回は一度も無いのだ。



代わりに、その都度別のメイドさんがやれお茶だ。やれお菓子だと甲斐甲斐しく用意をしてくれた。





「ジャンさん…会いたいよ…」





睡魔に疲労。

おまけにジャンさん不足で、私の目蓋はくっつきそうでくっつかない。


課題の山に突っ伏したところで、眠気など襲ってこないのだ。




疲れた身体は早く休みたいと悲鳴を上げる。


ただ、ジャンさんが足りない心はなかなか寝ようとしてくれない。




ハァ…と、広い室内に零れる溜め息が一つ。


それと同時に。




―コンッ



と、小さく来客を知らせるノック音が一つ。




「は、はい…!」




淡い期待を胸に、私は元気よく返事をすると。




「夜分遅くに申し訳ありません」




ティーセットを乗せたワゴンを持ったジャンさんが遠慮がちに部屋へと訪れたのだった。




「ジャンさん…!」


「部屋の明かりが点いているようでしたので…お茶をお持ちしました」


「ありがとうございます」


「………おや?コレは…」


「あっ…!す、すぐに片付けますね…!」



お茶の用意をしようと、テーブルに向かったジャンさんの視界には私が散乱させた課題に使う資料の山。



「…いや、そのままでいいよ」


「えっ…?」



すると、ジャンさんは私のことをふわりと抱きしめた。



「ジャ…ジャンさん!?」



ドキドキと高鳴る鼓動。


久しぶりに会う、その姿に時めいているというのに。



(いきなりだと…心臓が…)




身体中に伝わる、ジャンさんの体温。


ジャンさんは私を抱きしめたまま、ソファに沈んだ。




「あ…あの…?」



抱きしめられたまま、頭を撫でられる。

ジャンさんの指が私の髪を梳いてくれて、それが何だか心地いい。



「全く、君って子は…」


「…?」


少しだけ顔を上げて見れば、優しくも切なそうに微笑むジャンさんの瞳とぶつかる。



「クマができてる…。たまには休憩をしなさい。いいね?」


「あ…」


「って、俺が城にいなかったのも悪かったな…」


「え…?ジャンさん、いなかったんですか?」


「うん。あれ?ジョシュア様から聞いてなかった?」


「はい。てっきり、忙しくてきてくれないのかと思ってました」


「ハハッ。…ココにいる間は、どんなに忙しくても君のお茶は俺が用意するよ」


「でも…忙しいなら、大丈夫ですよ?」


「いや。俺が会いたいだけだからね」


「ジャンさん…」




その優しさに、心が温かくなる。



「俺と会えなくて寂しかった?」


「…はい」



素直にコクリと小さく頷く。




「ハハッ…。可愛いなー」


「も、もう…!からかわないでください!」


「いやぁ〜。俺も寂しかったから」




抱きしめてくれる腕に、力がこもる。




「ジャンさん…」


「ほら、今日はゆっくりお休み?課題なら明日俺が見てあげるから」


「でも、ジャンさんお仕事…」


「明日は一日、君の傍にいるよ」


「え…?」


「久しぶりに暇を頂いたんだ。だから、サクッと勉強を終わらせてデートに出掛ける。どうかな?」


「本当ですか…?」


「本当。…だから、ゆっくりお休み。…ね?」


「…はいっ!」





その言葉とジャンさんの温もりに次第に睡魔が襲ってくる。



「…おやすみ」




ポンポンと、規則正しく背中に伝うリズム。


オデコに、ジャンさんの唇の温もりが触れる。










「…参ったな…。可愛すぎて手を出したいのを抑えられるかな…俺」








そんな言葉を知る由もなく、身体中に温もりを感じて眠りの世界に旅立つのだった。











ジャンさんの温もりが、私の眠れる魔法のおまじない。







*END*



2013.05.07




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