贈り物小説2

朝のひと時
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トントン、と。

朝を告げる音が、遠くから聞こえる。




「ん………」



朝日を浴びながら、重たい目蓋を開ければ鼻腔を擽る美味しそうな香り。





「あ…お味噌汁…。トーストも焼けたのかな…?」




うーんと伸びをしながら、そんなことをポツリと呟く。


我が家の朝を告げる香りは、いつだって2種類だ。





「おい、ぶう子。って起きてるじゃねーか」


「あ、大和。おはよう!」


「おはよう。じゃねーだろ。起きてるならとっとと支度してこい」


「ふふっ、はーい」


「ったく…とんだ嫁だな」




ぶつくさと文句を言いながら、部屋を後にする大和。

彼のこの言い方に、愛情が隠れているのを知っている。




(ふふっ、そう言いながら朝ごはんの支度は絶対に私にやらせてくれないんだよね)



後ろ姿を見送ってから、私は自分の身支度を整えて自分の席に着席をする。




テーブルには、こんがり焼かれたトーストにハムエッグ。

それから色鮮やかなサラダとフレッシュジュース。


向かい側には美味しそうな焼き魚に味噌汁。


ホカホカと湯気が立ち込めた白いご飯をよそった大和が、そのまま席へと着席した。




「「いただきます!」」




朝はご飯の大和に、パン派の私。

初めて迎えた朝から、変わらない習わし。




「美味しい!今日の卵はふわっふわだね!」


「当たり前だろ。俺が作ってるんだぞ」


「ふふっ、偉そー」


「偉そうじゃねー。偉いんだよ」


「はいはい」




一緒に囲む食卓は、いつだって話題が尽きない。


笑顔だって、尽きない。




(幸せだなぁ…)




大好きな人と向かい合わせて食べる朝食は、本当に幸せで。




「…ねぇ、大和」


「んー?」



当たり前の事じゃないから、たまには伝えるべき言葉がある。




「いつもありがとう」


「………は!?…何だ、急に」


「こうして過ごせる事も、当たり前じゃないでしょ?感謝してます」


「ぶう子が感謝とか…今日は雨が降るな…」


「酷い!」




そんな風に、感謝をしながらも軽口を叩きながら。

幸せな朝食の時間を二人で過ごした。






「じゃあ、行ってくる」


「うん。行ってらっしゃい」




そのまま、仕事に出掛ける大和を玄関で見送る。




―――チュッ





“行ってらっしゃいのキス”は、付き合い始めてからの日課になった。




「あ、ぶう子」


「なぁに?」


「…いつもありがとな」


「え?」


「俺もお前には感謝してるから」


「大和…」




素直じゃない大和の、ストレートな言葉にじんわりと心が震える。




「あーもう」


「わっ!」




そのまま、髪をぐしゃぐしゃにかき混ぜられる。




「もう!大和っ!」


「ハハッ!」




髪を直しながら、上目に睨むといつもの意地悪そうな笑顔をする大和。





「今日はなるべく早く帰るからな」


「わかった。美味しいもの用意して待ってるね」


「ああ、じゃあ」


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」






パタンと閉じるドア。




「さーて、バイトに行くまでに洗濯しちゃいますか!」



腕まくりをしながら、パタパタとベランダへ向かう。




「あ!」




ベランダから見下ろした先に、大和の後ろ姿を見つける。




「ふふっ」




暫く、後ろ姿をそっと見送って。




「さーて、やりますか!」




パンっと、タオルを広げて洗濯物を干していく。




変わらない日常。


朝のひとコマ。


幸せな日々。


時々、感謝の言葉。









こうして、これからも大和と時を重ねていけますように。



見上げた空は、眩しいくらいに青空が広がっていた。





*END*




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