いただきもの小説

ハッピーハロウィン!
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たった二年だと…たかを括っていた。
 毎日一緒にいた時間が、逆に俺を苦しめる。
 携帯も海外でも使えるものを、総理に渡されているはずなのに、滅多に電話を寄越さない。
 理由は、携帯代が高くなるから、と。
 俺からかけても会話できる時間はたった数分だけ。時差がもどかしい。
お互いに忙しいのは事実でも、声を聞きたいし、会って抱き締めたい。
 でも、理都はそれを赦さなかった。
『二年で卒業するんです!』
 その言葉にいろんな思いがつまっていることを俺は知ってる。だから、休みの度に理都の部屋で過ごしていた。
「二年…長いな」
 背中を押したのは自分なのに、いざ傍から居なくなると不安になる。
 ちゃんとご飯を食べているのか、勉強に遅れていないか、変な虫がついていないか…。
 考え始めたらきりがない。
「ハロウィーンか…あっちはハロウィーンの度に事件起こってるからな…」
 仕事柄かそんなことを口走り、ベッドに横たわる。
 去年は変装をして、パーティーをやったな…と思いつつ意識を手放した。






 毎日送ってくれるメールを見て、顔が緩む。
「昴さんが元気そうでよかった!」
 自分がいった言葉が、自らを苦しめるのは予想できていたのに、そうしなければならない気がした。
 電話をしないのは、二年も経たずに帰りたくなってしまうから。昴さんからかかってきてもすぐに切るのも、同様で。
 会わないのは、ずっと傍に居たいとわがままを言ってしまうから。
‘愛してる、理都’
 末文には必ず書かれている、昴さんの想いに嬉しい反面寂しくて。
「私だって、昴さん大す…愛してるもん」
 本人に言ってる訳でもないのに恥ずかしくなる。
「行ってきます、昴さん」
 二人で撮った写真に声をかけ、学校に向かった。






『理都?』
 よんでも返事はなく、嫌な予感が走る。
『理…都』
 テーブルに置いてある紙に言葉を失う。
 ‘女を返して欲しければ、稲木場工場の倉庫にこい’
 その紙をクシャリと握り潰し、
「いい度胸だ」
 自分の言葉に目を醒ます。
「…夢、か」
 思わず携帯を開き、電話を掛ける。
 プルル…プルル…
 何度ならしてもとる気配がない。時間を確認して溜め息を付く。
 自分の頼りなさが、理都を苦しめる気がして、メールを打ち込む。
 ‘授業中にかけて悪かった。大したことはないから、授業頑張れ’
 本当の気持ちは抑え込み、そう送った。





 授業がすべて終わってから携帯を取り出すと、不在着信。
「どうしたんだろ?」
 メールを読んで切ない気持ちになりながら、携帯を閉じアパートに戻る。
 ブーブー!
 チャイムが鳴り、玄関に向かう。
「はぁい」
 何の気なしに出て後悔することになる。
「え…?」






 プルルル!
「…はい」
 知らない番号からの着信に、眉を寄せながら出る。
『スバル?ボクダヨ〜』
 片言の日本語に、
「誰だ?」
『名前聞ク時、自分カラ、名乗ルッテ言ワレマセンデシタカ〜?』
 間延びしたような言いように昴は舌打ちをして、
「エリック、わざとらしい日本語を使うな」
 と返す。
『相変わらず冷たい男で、安心したよ』
 先程とは打って変わって、癖のない英語で返し笑う。
『日本に旅行に来ていて、会えたらと思って、君の会社に行ったら休みだと聞いたから。ホテルにいるんだけど、久々に食事でも…と思ってね』
 そう言って、ホテルの場所を伝え一方的に電話を切られる。
「相変わらずだな」
 嫌な夢を見た不快感はなくなり、呆れつつも呼び出されたホテルに向かった。






「スバル、コッチデス」
 声をかけられ、そちらに向けば目を見開いて溜め息を付く。
「なんだ、それは」
男の服装に呆れたように言えば、
「今日ハ、ハロウィンデスヨ!ハッピーハロウィン」
「……その服でお前と二人で食事なら、帰る」
 と。
「ソウ言ウト思イマシタ★」
 にこりと笑い、昴の腕を掴む。
「ふざけんな。何が楽しくて変装だ」
「ノンノン、変装デハナク、仮装デスヨ♪ソシテ、ハロウィンパーティーシマショウ」
 エリックはそう言って、スタイルのいい女性から何かを受けとる。
「2003号シツデ、着替エテ来テ下サイ」
「俺は参加」
「一柳」
 聞き覚えのある声に、反応が遅れると、エリックは、
「お誘い頂きありがとうございます、総理」
 と英語で挨拶をすれば、諦めたように頭を掻く。
「総理…エリックを使わなくても参加しますよ」
「理都がいないから、参加はしたくないかと思ってね」
 いたずらっ子のように笑う、恋人の父に苦笑して、
「着替えてきます」
 と頭を下げエリックから服を受けとる。
「2003の鍵だ」
 鍵を投げ渡され、軽く手を上げてそのまま昴は着替えに向かう。






「帽子屋…似合いすぎる」
 ポツリと呟くと蹴られる。
「あ?てめぇはなんだ…ハンプティーダンプティーか」
 そう言って笑う。
「…ここの括りはアリスか?」
 ハロウィンパーティーなのに、昴達はアリスの仮装をしている。
「スバル、似合イマス!ボクハドウデスカ?」
 キラキラと目を輝かせて問うエリックに、
「チャシャ猫か…」
「本当ハ、ウサギニシタカッタケド、スバルニハ、可愛スギテ却下デス」
 と。
 そんな会話をしながら、パーティーは始まった。
(去年はゲストじゃなくてホストだったな)
 去年のハロウィンは理都と一緒に、仮装をして途中二人で抜け出したことを懐かしく思いながら、時間は過ぎる。
「スバル!楽シクアリマセンカ?」
 ボーッとしていたのか、声をかけられハッとすれば、苦笑したエリックの顔。
「女ノ子誘ッテキマスネ」
 そう言い残し、エリックは席を外した。






「連レテ来マシタヨ、素敵ナ子!」
「エリック俺にって、理都?!」
「昴さん?!」
 腕を引っ張って連れて来られたのは紛れもなく会いたかった恋人。
 お互いに状況が読めずに、まじまじと見てしまう。
「理都サン、座ッテ下サイ」
 椅子を引いて、席につかせる。
「遠距離ッテ辛イデショウ?」
 満面の笑みで問われ、状況を把握したのは昴だ。
「スバルハ、クリスマス忙シクテ、会イニ来レナイ筈デス。理都サンモ会イタイノニ会エナイノハ辛イ」
「だったら、早いけどクリスマスプレゼントってことで、理都を誘拐して貰ったんすよ」
 何処からともなく話に入ってきたのは海司だった。
「今、聞き捨てならない単語が聞こえたぞ…?」
 昴の言葉を無視して、話は進む。
「理都サン、警戒心ガ足ラナクテ逆ニ心配ニナリマシタ。スバル、警戒心ヲキチント教エナイト危ナイデス」
「…また、普通に開けたのか」
「うぅ…だって」
 久々に聞くお互いの声に、ホッとしたような顔を確認すると、
「理都サン怖イ思イヲサセテシマイ、スミマセンデシタ」
 と頭を下げて詫びる。
「えと…驚きましたし、怖かったですけど…こんなサプライズだと逆にこちらが感謝です」
 飾らない笑顔で返せば、
「理都サン大人デスネ」
 と。
「積ル話アルデショウ?二人ノ時間楽シンデ下サイネ。マタ顔出シマス」
 エリックはそう言って席を離れた。
 離れ離れになって、初めてのハロウィンは、大切な人達からの暖かいサプライズ。
 お互いの存在の大きさを改めて確認した心暖まる一日になった。



*END*


→管理人より




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