『ヘビトモ』

□ヘビトモ
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Scene1


 俺の名前は笠木秀一(かさぎしゅういち)。
 今、アパートにやってきた友人と玄関で対面しているわけだが……。
「俺は好きだ、笠木……」
 その友人・武藤英和(むとうひでかず)は真剣な眼差しでそう言った。
「そ、そうか……」
 あまりのことに衝撃を受け、俺は顔が引きつってしまった。
 大学生になったばかりの、春の日の出来事だ。
「お前は、どうなんだ?」
 武藤は必死に問いかけてくる。決して冗談ではないと分かってはいた。分かってはいたが、すんなり受け入れるわけにもいかなかった。
「正直に言う。俺は、好きじゃない」
 しかし、武藤はそう簡単には諦めない。
「好きじゃないってことは、別に嫌いなわけじゃないってことだな?」
「……まぁ、そうだけど……」
 確かにそうだ。俺はコイツのことが死ぬほど嫌いというわけじゃあ、ない。
「じゃ、一緒に住んでいいよな?」
 けど、だからといって。
「断る(←即答)」
 ヘビと一緒に暮らしたくはない!

 俺と武藤は高校三年の受験シーズンからの付き合いで、たまたま同じ大学に通うことになり、たまたま二人とも一人暮らしをすることになり、二人なら部屋代が安くなるし別にいいか、ということでアパートの一室で同居することになった。
 親友と呼べるほど仲がいいわけではなかったが、それなりに気も合うし大丈夫だろうと思ったのだ。実際、二人での生活は順調だった。武藤が実家で飼っているペットを連れて来た、この日までは。

「なんでヘビなんだよ!? ペットって言ったら普通イヌとかネコとかインコだろ! ありえねぇ!」
「何だと!? 世の中の爬虫類愛好者を愚弄する気か!?」
 俺だって、頭では分かっているんだ。ヘビやトカゲやカメレオンを飼っている方々が普通にいらっしゃることぐらい。しかしやはり、
「そういうわけじゃねぇけど、俺にはちょっと……」
 共に暮らすには勇気がいる。そしてその勇気がいまひとつ足りない。
「飼うのは俺なんだし。別にお前が世話する必要はないんだからさ」
「いや、一つ屋根の下で暮らすことに変わりはないから」
 だが、爬虫類を好む気持ちなど理解できない俺には、ヘビを愛してやまない武藤に勝つ術はなかった。
《二人が言い合っている間、彼の首にゆったりと巻きついているヘビ(タツオという名らしい)はのんきに眠っている。》
 勇気がいまひとつ足りないまま、結局武藤に推し通されてタツオと一緒に暮らすことになった。
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