『風に吹かれた者達』

□長月
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 視線を感じる。

(…………)

 いつも、どんな時も。

(んんー……)

 周りに人がいる時も、一人でいる時も。

(これは……)

 何者かの視線が、私の背中を突き刺してくる。

(お祓いに行ったがいい……のかなぁ?)

 嫌な感じではないのだが、とりあえず不気味だ。

 もう何年、この視線を感じ続けているだろう。ふと思い返して、十年は経っているだろうということに気付く。

 先にも言った通り嫌な感じはしないため、気にしないようにして放ってきたのだが……こう何年も続いては、さすがにどうにかしたいと思う。

 ちなみに私が感じているこの視線は、気のせいでもないし精神的な何かが原因というわけでもない。

 霊的存在が、私のことをじっと見ているのだ。そう確信している。
 幼い頃から何度かそういう類のモノをみているため、なんとなくわかってしまう。


 とかなんとか考えつつも、結局何もしないままに日は過ぎて……



………
 真夏を通り越しても暑さが染み渡るある日、私は死の危機に直面した。

 道を歩いている時に、電柱に取り付けられていた看板が私の目の前に落ちてきたのだ。

 もう一歩先を歩いていたら……
 私は錆びた古看板の餌食となっていただろう。

 その瞬間、通り過ぎた風とともに私は何かの気配を察知した。
 咄嗟にあの視線が頭に浮かび、もしかして自分は、得体の知れないその何者かに命を狙われているのでは、と考えた。

 そう思うとさすがに放っておけなくて、私は近所の寺へと駆け込んだ。
 ここの住職さんは、霊感が強く対処法なども心得ているのだ。

 そういうわけで私は住職に今までの話をして、何か悪いものがとり憑いているのでは、と訊ねた。
 あの視線は、きっと私の命を狙うタイミングを計っていたのだ、と思い込んでいたのだが…返ってきた答えは全く違うものだった。

「え……守護霊?」
「そう。君の事をずっとみているのは、君の御先祖様を守っていた人の霊だよ」
「じゃあ、あの看板は?」
「あれは本当に古くて落ちてきただけ。……九条家は昔、この辺りでは有力な武家でね、その主に仕えていた人の霊が、主の子孫である君の事を見守っているんだよ。まぁ、なんと忠誠心が深いんだろうねぇ……その人が見守ってくれていなければ、ひょっとしたら本当に看板が命中していたかもしれないな」

 穏やかに話す住職の話を聞いて、私は背筋が一瞬凍りついたのを感じ、同時にほっとした安心感を覚えた。



………
(そっかぁ、私を見守ってくれてるんだ)

 家に帰り着き、部屋でそんなことを考えている間にも感じる視線を、今はもう全く気にしなくなった。

 長年の不思議がありがたいものへと変わり、私の心も以前に増して朗らかになったような気がした。





【長月】終

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