カカサス4

□バレンタインに
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◇バレンタインに◇





※青いダックシリーズ。





その日は朝から不調だった。
魚焼きグリルがいきなり壊れて、オレは慣れないオーブントースターで鮭を焼かなければならなかった。美しく焼き上がらなかったそれはオレの心の痛手になった。
「おつゆおいしいぞ?」ってサスケが気を引き立たせようとしてくれているのにオレは「おいしくないもん」と膨れた。オレ幾つだ。
可哀相に。サスケは心が鬱積したまま登校しただろう…。なぜならサスケはオレを愛しているからだ。
不吉な前兆は昨日からあった。
スーパーのもさっとしたお姉ちゃんが、レジで卵をカゴの手前に置いた。オレがうっかりカゴを引っ張れば卵は落ちて割れてしまうだろうというストレスを感じた。
オレはO型だから、生命力が落ちているというか、生物としての終わりが近いのを感じた。それでもオレはサスケのためなら買い物に行き続けるだろう。なぜなら…
「なぜならあなたはサスケのためなら死ねるからですね、カカシさん?」
といつの間にか兄さんがオレのデスクの後ろで答えている。
「そんな先のない人とはさっさと手を切って幸せな人生をサスケには歩んで欲しいですねぇ」と意地悪く笑っている。
てゆうか、オレはまた思ったことを口に出していたのか。恥ずかしい。





だいたい兄さんはバレンタインに何しにきたのだ。
「チョコを狙っているなら、定時帰りまでありませんよ。今週は祝日があったからオレの会社は土曜は出勤日なのです」
「ああ、それは大変ですねぇ」
兄さんのところは、土曜日は休みなのか。うらやましい。
そしてオレは、兄さんを牽制せずにはいられなかった。
「今日は、冷蔵庫は遠慮していただけませんか?中に入っているチョコはもう配り先が決まっているのです…」
「ええ、解っています」
兄さんはふっと微笑むがさんざん前科があるから信用できない。
サスケとはよく似ているのだが、サスケが甘いものは苦手なのに対して、兄さんは甘いものに目がないのだ。
そんな兄さんをサスケは姉さんのようだといった。そしてサスケはよく風邪をひいたが兄さんの代わりにひいたのだと強がっていた。
これほどに愛情深い兄弟ならそういうこともあるかもしれない。
ああだけどサスケ、兄さんはおまえが思うようなか弱い人ではない。オレの会社で勝手に冷蔵庫を開けてはお菓子をむさぼるフリーダムな人だ。
友達の少ない兄さんはオレのことを好きだからとサスケはいうが嫌がらせに近いほうに〇ーパーひとし君だ。
すると兄さんはさすがにギラリと目を光らせるのだがまたオレは思ったことを口にしていたのかもしれない…





「そう。そのサスケですが、今週あなたのチョコレートを買いに電車でフランスが本社の有名店に寄ったのです…。フランス人はビターチョコを好むのです。それはあなたが甘いものは嫌いだからに他なりません…」
「サスケが、どうかしたのですか?」
オレは兄さんの気勢に押されて緊張して兄さんを見つめるが、兄さんはいつの間にか夢見るような表情をしている。
「だけどオレは日本人向けに販売しているキャラメルガナッシュのほうが好きなのです…」
いえ、兄さんの個人的な話は聞いていませんが。





そして兄さんはひそひそ話すのだった。
「その帰りです…。ホームの最前列に並んでいたサスケが誰かのアクシデントでドンと押された。サスケがよろめいたところに電車が入ってきたのです…。ですが、サスケは何かに弾かれたように電車とは反対側に倒れた…」
「兄さん、あなたは超能力者ですか?」
安堵のあまりキラキラ尊敬のまなざしで兄さんを見つめたが兄さんは首を振った。
「オレは普通の人間です…。しかしサスケを大好きな誰かがサスケの代わりに死ぬような思いをしたのは解るのです…そうですね。あなたが今週生命力が落ちていると感じたのはサスケの身代わりになってくれていたのです…」
「ありがとうございました、カカシさん。もうオレがサスケを守るのも、終わりに近付いているのかもしれませんね」
そう兄さんは微笑んだ。オレは兄さんを誤解しているのかもしれなかった。
兄さん、すみません。サスケも今朝は当たってごめんね。





だけどやはり昼休みに女の子たちが冷蔵庫を開けて騒いでいた。
「チョコの数が足りないわ!誰がやったのかしら!」
兄さんはやはりこういうことをする人なのだ。うっかり信じてはいけなかった。バレンタインのチョコを取るなんて兄さんはひどい。




FIN.
 

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