一周年記念

□足踏み
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□足踏み□





サクマ





車に乗るとき、必ずドアを閉めてくれる。
その時に見せるお前の微笑みが好き。
俺は車のドアが閉まる時のバンッていう音が苦手だから、その微笑みを見るだけで少し安心するんだ。

今日、ナルトとの最後の食事。
二人ともそれぞれの道を進むって決めたから。
待ち合わせ場所に珍しく先にいるお前に、何て声を掛けようか迷う。
迷っている内にナルトが俺に気付いて「じゃ、行こうか」ってらしくもなく暗いトーンで言う。
俺は何を言うでもなくついて行く。
無言で歩き出して、
無言のまま俺は車に乗り込む。
乗り込んで、
今日は目を伏せたままナルトがドアを閉めたから、
久々にその音で驚いた。

「何緊張してんだってばよ」
「…」
「顔、強張ってるぜ」
「別に。早く行こうぜ。店、予約してあるんだろ」
「おう」

車を走らせるナルト。
いつもなら景色に目が行かないくらいナルトと話すのに、今日は二人とも始めからそう決めていたかのように無言で過ごしている。
何度か通ったはずのコースなのに、こんなにゆっくり景色を見たのは初めてだ。
見覚えのない看板ばかりが通り過ぎていく。

終始無言のまま予約していた店に着いた。

駐車スペースにゆっくりバックする車。

完全に動きが止まり、ナルトがサイドブレーキを上げた所で俺は車を降りようと取っ手を引きドアを開けた。



バンッ

運転席から身を乗り出したナルトの手によって、俺が出る前にドアを閉められた。
その突然の音に俺は目を閉じ、明らかに驚いてしまった。

同時に唇に感じる暖かさ。

俺の顔を掴みながらもう片方の手で器用に自分のシートベルトを外すナルト。
だんだんと深くなるキス。
キスをしながらナルトにシートごと押し倒される。
もっと深く。
もっと。
もっと。

恐らく何分かお互いの唇を貪った所で、ナルトが顔を離す。
情けない泣き顔。
鼻水がナルトの鼻と俺の頬を繋いでいる。

「もっもう離さないってぇっ…決めたっのにっ…」

泣きじゃくりながら苦しいくらいにきつく抱き締めてくる。
俺の首にぐりぐりと額を擦り付けながら。

「おれってば…っ」
「…ナルト…」

ナルトのポケットから電話が鳴り響く。
きっと予約した店からだろう。

「…ナルト…、ごめん」
「うっぐ…ぅ」
「……ナルト、ごめん…。ごめんナルトっ…」
「…っうぅっ…」
「ごめんナルトぉ…っ」

俺も泣きじゃくる。
謝りながら。
抱き締め返してしまわないように拳を握り締めながら。
きっと俺もナルトも酷い顔をしてるに違いない。
ナルトなんか、額は真っ赤だろう。
二人の鼻を啜る音と嗚咽が響く車内。
そんな中でも
相変わらず
携帯は鳴り続けていた。






















――――――――――――――

二人の別れ際な話しでした。

トビ魚様へ、一周年記念に捧げます。


 

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