一周年記念

□はじめてのおつかい
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□はじめてのおつかい□





shilohama





「あ、醤油きれちゃってる…」

後ろをふりかえると、目をきらきらさせたサスケがこちらを見上げていた。

「今から一緒に買いに行こっか」

途端にサスケはしゅんとした顔をする。

え…なんで…。

「…俺、」

「ん?」

「ひとりでいく」

「おつかい、行ってくれるってこと?」

「うんっ」

「でも遠いよ?足痛くなっちゃうよ?」

「いく!」

いつも帰りは俺がおぶって帰ってくるしなぁ…。
ひとりでおつかい出来るのかな…。

「カカシぃ…」

上目遣いで甘えたような声を出すサスケに、俺はとことん弱い。
あぁ可愛い。

「一人でホントに行ける?」

コクンとうなずくサスケの頭にぽんと手を置き、目線をあわせてかがみ微笑んだ。

「お願いしてもいいかな?」

ぱぁっと顔を明るくし、サスケはぱたぱたと台所を走りぬけていった。
火を消してリビングに顔をだすと、サスケがお気に入りのうちわのマークがはいったリュックを背負って立っている。

「カカシっ!おかね!」

はいはい、とカカシはレターケースに入っている小銭をサスケのかわいらしい財布の中にいれて渡してあげた。
いつも一緒に行っているけど、一応行き方を説明しようとしたら、サスケは「だいじょうぶだよ」と笑った。
あぁ可愛い。

「サスケ、なにを買ってくるんだっけ? 」

「おしょーゆ!」

「そう。サスケはホントにいい子だね」

なでなですると、サスケはますます上機嫌になり、意気揚々と家を出ていった。
曲がり角の前で家の方ををふりかえるかなぁと見ていたが、一度もこちらを見ることなく進む姿が勇ましかった。

「日に日に成長してるんだな……とりあえず後を追うか」

茶髪の男に変化をしてサスケに気づかれないように後ろをついて行った。

サスケはやっぱり聡い子だ。
道を間違えることなく店にたどり着き、店内では少し時間がかかったが、ちゃんと醤油を見つけた。

「うんしょ」とサスケは家にあるのと同じ醤油を持ち上げた。
「あぁっ、無理しなくていいよ、ちっちゃいのでいいよ」と言いたかったが、見知らぬ男に突然話しかけられたらサスケはどう思うか分からないし。

…どうするんだろ。
…試してみる価値はあるな。

「ボク、一人?」

「うん」

「おつかい?」

「うん」

「偉いねぇ。お兄さんがおつかい手伝ってあげるよ」

「だいじょうぶ」

「お兄さんね、すごい楽しい場所知ってるんだ。一緒に来ない?」

「行かない」

「なんで?すごい楽しいのに」

「おつかいしてるから」

「おつかいの途中だもんねぇ。そっか。トマトもたくさんあるんだよ?」

「トマト?」

「うん。来る?」

「い…」

サスケがプルプルしだした。
行ってみたいけど、おつかいの途中だしっていう葛藤をしてるようだ。
あぁ可愛い。

「…やっぱりいかない」

「そっか。ごめんね?引き止めちゃって。お醤油はこのサイズがいいんじゃないかな?」

ニッコリ言うと、サスケは頷いた。
俺が大きいのを受け取り棚に戻すと「ありがと」と恥ずかしそうに笑って、サイズの小さい醤油を手に取った。

「どういたしまして。じゃあね?」

ひらひらと手を振ると、サスケも小さな手のひらでバイバイしてくれた。
あぁ可愛い。

やっぱりサスケは聡い子だ。
変な男に引っかからなかった。

レジに行って「239円です」と言われ、リュックの中の財布から300円をだし、おつりをもらった。
さすがサスケ。

醤油をリュックにしまって、店を出て歩きながら、よく分からない歌を歌っているが、それもかわいらしい。
子犬に変化して、トテトテとサスケの後を追う。

しばらく歩くと、突然サスケがこてっと転んだ。
その足元を見ると、小石が転がっている。

サスケはうつ伏せで転んだまま「うぅっ…」と泣く寸前の声を漏らした。

「カカシぃ…」

サスケに涙が浮かぶのを見て、俺は思わず駆けより、サスケの足にすり寄った。
サスケはしゃくり声をあげながら、驚いたように俺を見た。

「わんわんだ…」

「ワンっ!」

サスケに毛並みを撫でられながら、サスケの膝にかすり傷ができていることに気付いた。
早く手当しなければと思い、俺はサスケの手からすり抜けた。
家の方向に少し進んで、サスケに振り向き一度「ワン!」と吠えると、サスケは立ちあがって俺に並んで歩き出した。

サスケは強い子だ。
ぽつりぽつりとサスケが話して俺が相づちを打つように「ワンっ」と応えてしばらく歩いた。

あ、これ…サスケと家まで帰ったら変化を解くタイミングがないぞ…。

俺が急いで走り出すと、サスケも「わんわん待って!」と追いかけてきた。
角を曲がりギリギリで変化を解くと、息をあげながら走ってきたサスケとぶつかり、ひっくり返りそうになるサスケを慌てて受けとめた。

「あっ、と」

「わっ……あ、カカシ!」

「おかえり、サスケ」

「ただいま!なんでいるの?」

「迎えに来たんだよ」

「いえまでひとりでできたのに」

むくれるサスケの頬が膨らむのがハムスターのようで可愛かった。

「知ってるよ。俺が寂しくて来ちゃったの」

「ごめんね?」と頭を撫でるとサスケは嬉しそうに笑った。

「いいよ!俺ね、もう大人でしょ?」

「そうだね、すごいねサスケ!」

「すごいよ!」

「すごいねぇ。でも、サスケがすぐに大人になっちゃうのは、少し寂しいなぁ」

「さみしいの?」

「うん。もうちょっとだけ、俺にぎゅっとされる小さなサスケでいて?」

「わかった!」

「ふふっありがとね」

サスケを抱き上げて、家に向かって歩くと、さっき俺が変化したのによく似た子犬が歩いている。

「え…」

「あっ!わんわん!」

サスケが手を振ると、子犬がそれに応えるように「ワン!」と吠えて曲がり角に消えていった。

…まさか実在したとは。

カカシはサスケの膝の傷にたった今気づいたように驚いた。

「サスケケガしてるじゃない。どうしたの?」

「さっき転んだの」

「痛かったでしょ?」

「でもね、泣かなかった!」

「えらいねぇ!サスケは強いねぇっ」

サスケを抱き上げたまま、片手でわしゃわしゃと頭を撫で回すと、くすぐったそうに笑った。
あぁ可愛い。

「また何かあったらお願いしてもいい?」

「うんっ!…あ、でも」

「ん?」

「今度はカカシと一緒がいい」

「どうして?」

「…ちょっとさみしかった……かもしれない」

「そっか。そうだね。じゃあ次は一緒にお買い物行こうね」

「うんっ!」

あぁ可愛い。
寒さで真っ赤になったサスケの頬を優しく撫でた。
よく頑張ったね。

「さ、家に入ろっか」

end

 

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