story

□世界で一番、
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世界で一番、









跡部はときどき、

彼のとてもとても弱い部分を、

俺、だけに

見せる。




「お前がどこかへ行きそうで、怖い」





裕福な、一見するととてつもなく幸せそうな家庭の中で育っても、

きっと、俺になんか

想像もつかないような

苦しみ、を、

背負って生きているんだろうな、って。



俺、すごく思う。




今だってほら。

二人で、学校から帰ってるときでも、


ほら。


こんなに唐突に、

彼の弱い部分を、俺に。





「お前が、急に、どこかへ消えていってしまいそうで、」




オレンジ色の空。

むんとした夏の夕方の空気。

隣の跡部。




「怖い…んだよ」










あぁ、あとべは。

自惚れじゃなく、俺がいないときっとあとべは、

夏の夜に咲く花火みたいに、

きれいに、とてもきれいに、

一瞬で、

散っていって、しまうんだろうなぁ。











「あとべがね、」




跡部はきっと笑うだろう。

何言ってんだよ、と。

もしくは、怒るだろう。

自惚れるなよと。





「どうしても不安で仕方がないって言うんならね、」





そして跡部はきっと、その瞬間、

とてもとても切なそうな表情を見せるだろう。


一瞬だけ、ほんの一瞬の間だけ。




「おれ、」




こんな科白を俺に言わせてしまうことと、

けれどそうせざるを得ないことの、両方に。





「おれね、」




きっと、

世界で一番、綺麗で、切ない、微笑みを、




「鎖でつながれたって、いいんだよ?」





浮かべるのだろう。










end(2006.06.21)

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