story
□SCISSOR HANDS
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乾は僕のことを名前では呼んでくれない。
いつも「不二」と呼ぶ。
本当は、そんなこと重要じゃないんだけど。
何故か少し、ひっかかるんだ。僕の、心に。
SCISSOR HANDS
彼と一緒に朝を迎えた。
もうこれで何度目だろう。数えたこともない。
僕を残して早々とベッドから起きあがった乾は、枕元に置いてあったメガネを取ってかけ、シルバーのソファに乱暴に座った。
「はぁ。」
大きなため息をつきそのまま目をつぶって天井を仰ぐ乾は、何故かとてももろく見えた。
「いつまでそのカッコでいるつもりだ?」
チラリとこっちを見て彼が言う。
「腰が痛くて動けないんだよ」
僕はそう答えた。
“こうなったのは、全て君のせいなんだよ”
僕の隠れたメッセージに気付いたのか乾はふっと笑うと「すまん」、と小さく言った。
彼の性格は部屋にもよく表れていて、家具は何から何までシルバーで統一されている。余分なものは一切ない。
『丸みを帯びたような、不安定なものは嫌いなんだ。』
どうしてこんなに統一してあるの、と前に尋ねたときの返事が今なぜか思い出された。
何でも機械的な彼の、唯一ヒトらしいところといったらその儚さくらいだろうか。
気がつくと、乾は煙草を吸っていた。
ニコチンとタールが彼の体を醒ましているんだろう。
彼は美味しそうに、ゆっくりと白く濁った煙を吐き出している。
「いつから吸ってたんだっけ?」
「高2。」
そうか、高2か。
僕は確かめるようにそうつぶやくとおもむろに起きあがった。
鈍い痛みがかすかに走る。
「…ッ…」
「大丈夫か?」
「…うん、平気。」
もう慣れたよ、この痛みにも。
僕は床に散らばった衣服を集め、だらだらと着替え始めた。
煙草の煙がゆらゆらと部屋に広がっていく。
「不二、俺はどんな人間なんだ?」
突然、彼がそんなことを言い出した。
時々すごく哲学的になる人だから、驚きはしなかったけど。
「サイボーグ」
冗談で、でも少し本気でそう答えた。
そうか、と言って彼はまた自嘲気味に笑った。
「何なんだろうね、僕らの関係って。」
僕は何気なく聞き返した。
言いたいのに言い出せないでいた事って、案外何も考えてない方が気楽に口にできるものなのかもしれない。
吸い終わった煙草を灰皿に押し付けると、乾は僕の方へと歩み寄りながら
「そうだな、サイボーグと美少年の悲恋物語かな。」
と言い、そして僕の顔のすぐ近くで
「“シザーハンズ”みたいな。」
と付け加えた。くくっと笑いながら。
そうして君はまた僕を抱き始めた。
「服は、まだ着なくていい。」
さっき服を着るようにせかしたのは君のほうじゃない。
くすくす笑いながら、僕は着替える手をとめた。
end