story
□神に愛された子供
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「あくつがね、力に目覚めたのって、いつ?」
「…覚えてねー」
「俺はね、7歳のとき」
「…へぇ」
「それが初めて力を使ったときで、そして同時に初めて人を殺したとき」
「…」
「誘拐されそうになったんだ。俺」
「…」
「知らない男の人に連れていかれそうになって、で、俺怖くて、思いっきり泣き叫んだ。神様助けてってお願いした。そしたら一瞬記憶が途切れてね、気づいたらその人が血まみれになって死んでた」
「…」
「俺の目の前で。」
亜久津はただ黙って俺の話を聞いていた。
「今だって、本気出したら殺せるのかもしれないけどね。でも、ほら、」
俺はこめかみのあたりをトントンと指で軽くたたく。
「そんな大きな力使おうとしたらここに埋められたチップで。感知されちゃうでしょ」
俺はふふっと笑う。
「あくつなんて本気出したらここの人みんな殺せちゃいそうだけどねー…」
俺が独り言のようにそう呟いたら亜久津は俺の口を抑えて怖い顔をして言った。
「…もう黙れ」
“どうせ盗聴されてる。それ以上喋るとお前までブラックリストにのるぞ”
亜久津の声が脳内に響いた。
(俺なんかより何倍も優秀な亜久津は、俺の脳に直接話しかけることができる。)
「…ゴメン」
俺は謝った。
二人の間に、少しだけ気まずい雰囲気が流れた。
亜久津は俺の顔を少し見たあと、俯いて何か考え出したようだった。
そしてしばらくして、俺に、話しかけた。
“お前、一緒に来るか?”
「え?」
“こっから逃げんだよ”
「…できるの?」
“一人でここから逃げ出すのは不可能だ。だが二人なら、できねーこともねぇ”
「…」
“この話、のるか?”
「…うん」
俺の心臓は痛いくらいに鼓動を打っていた。
“…よし、お前と二人だ。二人だけで、逃げ出す”
「…うん」
“このこと、誰にも言うなよ”
「…うん。わかった」
亜久津の目が俺をとらえる。
俺も亜久津をじっと見つめた。
“…今はまだ具体的なこと言えねぇけど、大体の手順は説明しとく。まず―”
そして亜久津は話を再開した。その間中俺はずっと亜久津の目を見ていた。
色素の薄い彼の瞳は、灰色のようなオリーブ色のような、不思議な色をしていた。