story

□final decision
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昼間からセックスをした。
いつものことながら、激しかった。
絶頂に達する一瞬前に千石は自身を引き抜くと、俺の口に銜えさせた。「飲んで」と。



final decision



「俺さ」

千石はそう言って俺の銜えていた煙草をさっと奪った。一瞬の出来事に、俺は肺の中に残った煙を吐き出すことしかできないまま千石をギラリとにらみ付けた。

「はは、そう恐い顔しないでよ」

笑って、千石は美味しそうにそれを吸った。
一人暮らしの千石の部屋のベッドの上。エアコンの温度をめいっぱい高くして、二人して裸で、シーツ一枚だけを纏う。千石は暖かい中で汗をかきながらするセックスが好きだと言った。そのほうが絶頂のときに余計気持ちよく感じるのだそうだ。

「…俺ね、」

さっきまで笑っていたのに、そう切り出した千石の目はとてもとても冷たかった。あぁ何か、きっと何かとてつもなくひどいことを言われるんだろうなと俺は本能的に悟った。

「お前を殺したいと思ってる」

そう言って、千石は、しかしにっこりと笑って俺を見た。

「心の底から」

その笑顔がやっぱり恐ろしく温度を欠き狂気めいたものに俺には見えたので。
そーかよ、と小さく言って俺はそいつの口から煙草を奪い返した。
千石の唾液のせいでそれは少し湿っていた。そんなことにすら敏感に気づいてしまう自分が嫌だったけれどそれが最後の一本で、そして吸わないとやってられないくらい、その場の空気は張り詰めたように俺には感じられた。

「それだけ〜」

千石はへらへらと笑って、そして、俺に「2回目しよ?」と言った。

「…てめぇでしろ」
「そんなツレナイこと言わないでさぁ」
「うっせーな」
「あくつー」

うるせぇっつってんだろ、そう声を荒げた。
自分のいいたいことばかりいって俺の心を理由もなく曇らせる。困惑させる。狼狽させる。そんな千石を恐ろしくも鬱陶しくも思っていた俺は、そう言って千石を遠ざけようとした。防衛本能が働いた、といってもいいかもしれない。

千石はもともと大きな目をよりいっそう大きく見開いて、俺を見た。
びっくりした、と小さな声でつぶやいて、そして、「なにあくつ、どしたの」と。

「…どーもしてねぇよ」
「怒ってるじゃん」
「うるせぇな」
「…殺したいって言ったこと?」

わかってんじゃねーかよ、と俺は思う。イラついて、肺まで煙を吸い込んだ。

「…それはね、ほんとだよ?」

にやりと笑って、やつは俺の顔を覗き込んだ。黒い瞳には俺が映し出されている。
背筋に冷たい何かが走った。鳥肌がたった。

「俺ねー、お前を、殺したい」

あは、と笑ってそう言い、そして俺の煙草をもう一度奪い、けれどそれは吸わないまま奴は俺の唇を塞いで、そのまま俺を、押し倒した。

「…」

千石は手をのばすと、枕元に置いていた空缶に煙草を入れた。じゅ、と音がして、そしてそのままその手を、俺の頬に当てた。

「殺したい、」

上から徐々に近づいてくる奴の顔。

「殺したいくらい可愛くて、」

ぞくり、

「憎くて、」

鳥肌がまた立った。

「愛おしい、よ。」

その感覚が快感に似ていることに、俺は気づかないふりをした。



end(2008/12/10)

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