story

□ashes to ashes
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その日の夜、夢を見た。
亜久津に、殺される夢。



夜、行き止まりになった路地裏の壁に俺は背をぴったりくっつけて立っていた。

そして目の前には指を細長い銀色の針のようなものに変形させた亜久津がいた。


『 許 せ 。』


彼はそう言って、その綺麗に光る針の先端を俺の首の側面にゆっくりとあてた。

そして彼は表情ひとつ変えずに、泣いた。

俺の目の前で、すうっと涙を流しながら、彼は、俺を、見つめた。


俺はそのとき、今までで一番の幸福を感じた。


―ありがとう。


もうすぐ殺されるというのに、彼にむかって声にならない声でそう言った。


―ありがとう、亜久津。


そして、目を瞑った。


彼の指の鋭い針が、首の皮を突き破ってだんだんと侵入してきた。

思っていたとおり、痛みはまったくなかった。ましてや、恐怖などみじんも感じなかった。

ただ、“嬉し”かった。


そして針が、俺の首をついに貫通したのがわかった。喉の奥の方に、冷たい異物があるのを感じた。

だんだんと、呼吸がしにくくなる。

苦しくはなかった。

穴のあいた喉からひゅうひゅうと息のもれる音がした。うっすら目をあけて亜久津を見ると、彼はまだ泣いていた。


そんな彼を見て、俺はかすれて声にならない声で言った。


―亜久津、キスして。


彼ははっとして俺を見、それからうつむいてはらはらと静かに涙を流してから、

決心したように、

俺に、キスをした。




唇を重ねている間、亜久津の涙が頬を伝って俺の口の中にしみ込んできて、それはなぜか、鉄の、血の味がした。

そしてずっと唇を重ねているうちに、だんだんと目の前が真っ白になってきて、死ぬなぁ、と一瞬ぼんやりと自覚した後、俺はカクンと倒れた。





そこで目が覚めた。無意識に隣に目をやると、亜久津が俺に背を向けて寝ていた。

うっすら汗をかいていた。

さっき見た、もう既に忘れそうになっている―けれどとてつもなく悲しくて、幸福な夢であったことは強く覚えている―夢の内容を最初から思い出してみようとする。



―現実だったら、よかったのに。



そう思いながら、俺は亜久津の首筋に唇を押し当てた。

彼を起こさないようにそっと、そっと。






end
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