夏目/友人帳
□散歩
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「んっ! ふっ! ふぅっ!」
通りを挟んだ向こう側から白くて大きな真ん丸い塊ががこっちに向かって近付いて来る
ゆっくりと近付くそれは、漸く猫らしい、と気付く
らしい、というのはおよそ猫には見えないからだ
猫らしからぬ、それはぼよんぼよんと弾むように転がっている
「ぬっ! はっ! ほっ!」
それが弾む度に音がする
いや、生き物、だろうから、声、と言うべきか、迷う
しばらく後をつけてみる、というか、気付いたら後をつけていた
ずっと、弾んでいるそれは、少しずつだが前に進みながら
ぼよん、ぼよんと
弾む度に
はっとか、ほっとか、息継ぎの様な声
「にゃんこ先生っ」
その白い猫の様なモノは、声を発した少年に気付くと一際高く弾んで少年の胸にどっかりと収まった
にゃんこ先生と呼ばれたモノは、その腕の中が余程居心地が良いのか目を閉じてうっとりとした表情だ
一方、飛び付かれた少年の方は、やはりあの塊がずっしりと重みがあった事を物語るかのように、飛び付かれた衝撃にむせていた
それでも、少年の手はとてもそれを愛おしそうに撫でている
少年たちがこっちに歩いて来た
私は、横を通りすぎて行くのをじっと待った
「おいっ、夏目、まんじゅうはどしたっ!!!ちゃんと買ったのだろうな!!!」
と、それが少年の腕の中で暴れるのを見て、あぁ、こいつは妖怪かぁ、だからこんなにもぶさい…
と思ったところで、少年と目が合った
!!!
少年は柔らかく笑って、またそっと目を反らした
「にゃんこ先生、そんなに食ってばっかだと、ホントにボールみたいになっても知らないからな」
「ぬぬぬっ〜、なにを〜!!! 高貴なこの私にむかって、ボールとはなんだ!! ボールとは!!!」
ごめん、ごめん、と頭を撫でている少年
会話が成り立っている所を見ると、この少年は、私たち妖が分かるらしい
目が合ったと思ったのも気のせいではなかったのだ
「おいっ、夏目ぇっ」
なつめ?
あぁ、聞いたことがある
そうか、あの子供が夏目、というのか
なるほど、それで妖を手懐けていたのかと、納得する
夏目、会えてよかった
美しい少年だったな
おしまい
良く分からない一応妖らしいものに、日常の睦まじい所を観察されましたって感じ?
でしょうか