夏目/友人帳

□懐かしい
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―風に夏の匂いが混ざる―




とてとてと、短い足を懸命に動かして砂利道を歩む白い塊



ふくよかな身体を弾ませるふわふわの生き物



夏目貴志という少年の家に居候するこの生物は



一応、猫……らしきもの



砂利道を越え草を掻き分けずんずん進んでいく



まるで緑の海を優雅に泳ぐかの様




と、突然目の前が開けて河岸に辿りつく


その猫、らしきものは歩を止めてちょこんと座った




見つめる先にいたのは居候先の少年、夏目少年




河に程近い所に腰を下ろし流れに観入っているようだ



風が吹くと草の匂いや河の匂いに混じって少年の匂いも届く


確かめる様に鼻をすすった



確かに記憶に残るモノがあった



いつも他人に合わせてばかりいるこの少年が不憫でならない


しかし、自分が口出ししても何も変わらない



自分の意志で変わらなければ意味がないのだ



そして、それにちゃんと気付き始めた少年は、ゆっくりだが確かに前に進んでいるのだろう



あの少女に似ていると感じたのは最初だけだった



他人を寄せ付けない膜のようなものにくるまれていた



だが少年なりにも、もがきながら、少しずつ、少しずつ這い出してきた



卵から孵った雛が殻を破って出てくるように



「あっ、にゃんこ先生」




気付いた少年は優しい笑みを浮かべてその猫を呼んだ



いや、やはり、猫、らしきものであろう



呼ばれて立ち上がり駆け出したそれは、それはそれは見事に転んだ



身体が丸い分だけ余計に転がっていた




その様子を目にして少年はさらに声を出して笑った



こんな風に、いつでもお前には笑っていて、欲しい



なんて思うのはいけないことではないはずだから………







Fin.


20120705
夏目の話を妄想する時は大抵絵のようなワンシーンが浮かびます
キラキラと水面が反射して眩しそうに流れを見つめる夏目を少し遠くから見ているにゃんこ先生

キラキラと眩しい光に吸い込まれそうな夏目をにゃんこ先生は見守っていて欲しいのです

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