小説

□I live ...
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「……タッちゃん…?」
ドアを開けたイクオは驚いていた。
「…どうしてここにいるの!?誰かに見られたら大変なことに…」
オレは、喚くイクオを部屋に押し込んだ。

「来るんだったら…せめて連絡くれればよかったのに」
部屋に通されたオレは、促されるままにイクオのベッドに腰掛けた。
「…コーヒーでいい?インスタントしかないけど…」
マグカップが2つ、目の前のテーブルに置かれた。イクオがオレの隣に腰掛ける。
「服、穴開いてるけど…ケガ?…っていうか…銃弾傷(たまきず)だよね、コレ…?」
オレは何も答えない。
「何か…あったの?」

オレはアルカナで蝶野から逃げた後、闇医者で手当を受け、気づいたら…イクオの部屋の前に立っていた。
何故かは自分でもわからない。
別に用があった訳じゃなかった。もちろん、アルカナであった事を話すつもりもない。心配はかけたくない。だから、傷が癒えてからイクオの前に姿を現すべきだったのに…。
でも、ここへ来てイクオの顔を見たら、少し安心した。
「それにしても…タッちゃんが僕に会いに来るなんて珍しいね。どっちかって言うと、昔から僕がタッちゃんについて回ってたのに」
そう言って、イクオはオレの左肩を撫でた。
「…大丈夫?…痛む?」
指先が、オレの首筋に触れる。
心配そうにオレを覗き込む無垢な瞳。
それを見た瞬間、オレのぐらぐらに壊れかけた理性が消し飛んだ。
「ぅわっ…」
ドサッ
オレはイクオをベッドに押し倒した。
「…タッちゃん?どうし…ンッ」
何か言おうとしたイクオの唇を無理矢理塞ぐ。脚を開かせてその間に割って入り、首筋に口付けて上着を捲った。
「やっ…ちょ、タッちゃん!?どうしたの?おかしいよっ」
イクオは一瞬オレを押しのけようとしたが、俺が怪我を負っているのを思い出したのか、すぐに手を引っ込めた。
「イクオ…」
「…っ!!」
耳元で囁くと、身体がビクッと震えた。イクオの力が抜ける。
「イクオ」
「…タッちゃん」
一気に息を荒げたイクオは抵抗をやめて、静かに目を閉じてオレの首に腕を回した。
普段なら、特に何も思わなかっただろう。コイツが抱きついてくるなんて、よくあることだったから。
でも、今日のオレにとっては、この行為は少し意味合いが違っていた。
オレは動きを止めた。

――あたたかい――

イクオの体温を感じる。
ああ、そうか。
オレは、コイツに会って、生きてることを実感したかったのか。
自分が生きてるかどうかを、確認したかったんだ――。
差し違える覚悟で金時計を仕留めにアルカナに突入したオレだったが、自分とイクオの写真を見つけて少し怯んだ。死ぬのが怖くなったんだ。イクオを置いては逝けない。家族もなく、結子先生を失ったオレ達には、もうお互いしかいないんだ。
命からがらアルカナから逃げ出したオレは、どうしてもイクオに会いたかったんだ。イクオに、生きてることを確かめさせてほしかったんだ――。
「…タッちゃん?」
動きを止めたオレに、イクオは目を開けた。
今のオレには、気持ちを偽る余裕なんてない。オレは、イクオの胸に顔を埋めた。
「…タッちゃん」
「……あったけぇ」
我ながら、なんて情けない格好なんだと思う。でも、そんなことどうでもよかった。
オレは生きている。それを感じられるだけで、今は十分だったから。
「タッちゃん…」
イクオは何も聞かずに、オレを抱きしめた。
「…うん。生きてるよ。…僕も、タッちゃんも」
だから大丈夫だよ、とイクオは続けた。
コイツは…何もわかってないようで、全てお見通しなんだな。

そう。オレ達は生きてる。
ずっと、一緒に歩いて行こう。

-END-

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