小説

□繋いだ手 -Side T-
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思えば、気づけばいつもイクオが傍にいたな。
正直目茶苦茶うざかったが、同時にどこかで心地好さも感じていたと思う。
振り払っても振り払っても手を握ってくるアイツが愛しくて。オレは、繋いだ手を握り返した。

結子先生が殺されて、『まほろば』は失くなってしまった。
オレ達はバラバラの施設に引き取られることになり、イクオとも離れ離れになった。
例の事件を目撃したオレ達が一緒にいては、あの悲劇を忘れることができない。そう結論づけた大人達の配慮を、オレは責める気はなかった。それに、オレ自身が事件のことを忘れなければ済むだけの話だ。
でも、車の窓にへばり付いて泣きじゃくるイクオの姿は、見てられなかったな…。もう一緒にはいてやれねえんだよ。もしいてやれたって、他に何もできやしない。オレ達子供は無力なんだ。
あの時のイクオの泣き顔は、今も忘れない。

それからオレは、なんとかイクオの事を忘れようと努めた。一緒に復讐は誓ったけれど、もう会えやしないんだ。会わずに静かに各々の生活を送った方が、お互いのためだ。そう信じようとした。
それでもどこかにあった諦めきれない気持ちが、あの日オレ達を引き合わせたのかもしれない。結子先生の墓参りに行ったその日、オレ達は運命的に再会した。

あんなに忘れようとしていたのに。再会したことでいよいよイクオを忘れられなくなったオレは、施設に出向いてまでイクオの顔を見に行った。気づくと、アイツの学校にまで足を運んでいた。
イクオは、虐められていた。
許せなかった。イクオを虐める奴らも、黙ってやられているイクオも。そして、何もしてやれない無力な自分自身の事も。
だから、オレはやっぱりイクオの事を忘れてしまおうと思った。そう決めていたんだ。そう、宇津木の話を聞くまでは。

もう一度会いに行ったとき、イクオは完全に壊れた目をしていた。オレは怖くなった。血の海の中で冷笑を浮かべるイクオ。コイツは、ここまで壊れていたのか…?
いつからだ?結子先生が殺されたあの日からだろうが、周りの大人達はイクオに正しいケアをしてやったのだろうか?支え合える友達もいなかったのではないか?もしオレが傍にいてやれたら――結果は変わっていただろうか――?
オレは倒れるイクオを抱き留めた。硝子の様に脆いイクオの心。それをここまで壊した金時計の男を、オレは赦さない。
これ以上壊れないように。これからは、オレが傍にいてやるよ。イクオ…。

「合格だ」
初めてオレから握ったイクオのその手は、それでもあの頃と同じ様に温かかった。

もう放さない。イクオは、オレが守ってみせる。

-END-
 

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