短編

□またいつか
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別世界からやって来た緑川と緑川の話。





幽霊とかUFOって信じる?


存在するわけがないって信じてた。物理的にも有り得ないと思っていたはずだった。


けど……

もしかしたら有り得なくないのかもしれない………………


何故って?
だって、俺が…俺自身が目の前に、今此処に存在しているのだから。





俺と…いや、目の前に立っている俺自身は俺をじっと見据えている。相手はポニーテールをしてなく、長い髪を降ろしていた。
なんとも言えない威圧感に押されていて、その場に立ちすくんだまんま、脚がが金縛りに掛かったように固まって動かなくなってしまった。

「…………。」

しばらくの間、立ったまま黙りこくっていると、俺じゃない俺自身はクスクスと密かにわらった。

『っ、ははははは!…そんなに怖い顔すんなよ?』

「は…?」

いや、こんな状況になってしまったら誰だって怖い顔になるはずだ。


『…まあ、そんな顔をするのも仕方ないか。だってもう一人同じ顔を持つ人間がいるんだし。』


ズバリと俺の考えを突いたということは、相手もしっかりとこの状況は理解しているらしい。

でも、どうして

「なんで俺が二人いるんだ…!!」

相手に問い掛けるように呟く。

『…簡単に言うと、俺は別の世界の住民。”パラレルワールド“の中にある内、一つの世界からやってきたんだ。』

「パラレルワールド……?」

『パラレルワールドってのは、いくつもの別の世界…いや、色んな人生の道が何種類も繋がってできた別次元なんだよ。…人生は、決まりきっていないからね。』

「じゃあ、お前はどんな人生になった俺なんだ……。」

相手はニヤリと妖しく笑った。

『…エイリア学園の作戦成功後の世界。つまりは雷門中学は俺達に負けた後の世界なんだよ。だから今現在の俺はレーゼだ。』

「っ!!」


相手の言葉が突き刺さってきた。

蘇るエイリア時代の記憶。
心の中の奥底に眠らせておいた、心身共に傷ついた、あの恐ろしい記憶が…
…たった相手の一言でいとも簡単に蘇ってしまった。



『俺はわかるよ、怖いんだろう?
色んな人を傷つけ、悲しませてしまった。
学校破壊を命令させられ、苦しみながらレーゼとしての指命を果たしていった。
…最初は俺も同じだったから、ね?』

「いやだいやだやめろ…!!
その話はもうやめてくれっ!!!!!」

心が壊れてしまう。
もう、あの時の事は思い出したくない、忘れていたいんだ…!!

『今の俺は緑川リュウジではない、レーゼなんだよ。…基山ヒロトもいないんだ。ほら、想像してごらん?』

「っ…やめろおおおぉぉぉ!!!!
ヒロトを持ち出すなあああああ!!!!」

両耳を手で塞ぎながら、相手を消し去るような勢いで叫ぶ。
だけど、そんな思いとは裏腹に相手はまだ平然としながら立っていた。

はぁはぁ、と息遣いが荒くなった。
ムキになっている証拠だ。


「なんなんだよっ!!お前はなんで俺の所にやってきたんだ………!!」

ふと、相手が一瞬、ほんの一瞬だけ悲しい表情を浮かべた気がした。…そんな感じがしただけで定かではないが。


『なんでって…ねぇ…?
ただ君が羨ましかったからかな?…まわりの人達が君を救ってくれて今の君が存在しているのが羨ましいよ。
…同じ”俺“なのに、一歩間違えただけでこんなに変わっちゃうなんてね…』

相手が複雑そうな顔をしたのを、今度は見逃さなかった。そんな表情を見た俺の心がズキリ、と傷んだ。


『俺は、緑川リュウジとして居たかった。
…ヒロト達と一瞬にみんな仲良く暮らして…………サッカーやって、みんなでいっぱい話して、沢山笑いあいたかった。
…なのに、なのにっっ!!
なんで、俺は、お前みたいにはなれないんだっ…!!』

さっきの余裕そうな表情から一変。焦り、怒りが感じられる声で涙ぽろぽろと流しながら、俺の胸倉をつかみ掛かってきた。
俺自身だからこそ、何が言いたいのかよくわかった。

…辛い、苦しい。
そんな言葉が心に届いてくる。



「大丈夫だよ……。」

ぎゅ、と相手を抱きしめる。
自分自身を抱きしめるなんて滑稽な図かもしれないが、今はきにしない。

「お前は、だって俺だろ…?
そっちの世界ではいつか…いや、絶対に助けてくれる人が出て来る。
きっと、みんなもそんな世界は嫌な筈だ。…みんなおんなじ”人“なんだから。
今だけだよ。待つのはもう少しの辛抱だから……あきらめないで…。」

相手は俺の腕の中にくずれながら声をあげて泣きに泣いた。












『ありがとう…。』

少しばかり照れ臭そうな表情を見せていた。泣いたからか、少しばかり落ち着いたようだ。

「…どう致しまして。」

『俺に会えてよかった。…君の言ったこと忘れない。絶対に自分の未来を変えてみせるよ……!!』
「うん…。応援してる!!」

『俺はそろそろ戻らなきゃな……。あ…あと、君に負けない程の未来を創ってみせるから!…じゃあね!!』

パチン、と指を上で鳴らすとパッ、と消えていった。



「…じゃあね……」









まだ、未来はいくらでも変えられるんだ―…

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