KH夢

□はじめましていってらっしゃい
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いつも通りのある日の事、

いつも通りの通学路で、

いつも通りのメンバーが、

いつも通りに学校に向かっていた。


その『いつも通り』が、今日が最後だとも知らずに。




「おはよー」

『おはよ、上沢』

「おはよう、――君!」

『はよ、春香ちゃん』

「おっせーよ!今日は卒業式なんだぞ!」

『時間通りだよばーか』

「最後くらい早めに来て俺を感動させろよ!」

『死んでもやだ』

「ひ で ぇ w」


卒業式、サクラ散るこの季節。


この日、惨事は起きた。



「にしても、さすがに人多いなぁ。」

『…酔いそう。』

「弱ッッ!」

「大丈夫?酔い止め薬あるよ」

「春香は――に甘いんだよ!」

「だって!――くんかわいいんだもん!」

『あはは…』


少年は《かわいい…ね》とつぶやきながら苦笑いで返し、隣にいる上沢をちらりと見やる。

春香が――についてクスクスと笑うもんだから、すこし頬をむくらましていた。


そこで――は春香から少し離れ、上沢に耳打ちする。

『上沢、春香ちゃん高校行ったらぜってぇもてるぞ。お前なんか学校ちげぇんだから、今日が最後のチャンスだ。』

「はっ、はぁ!?な、な、何言ってんだよ!おれ別にっ…!」


ばっこーん


「あだっ!」

『今日言わねぇで後悔するより言って後悔したほうがまだましだろっ!』

「…――、おれ…」

『おら、行ってこいよ。』


――の言葉に諭された上沢は、一度だけ頷いて春香のもとへ。


『青いなぁ…青い春だ。うん。』


某忍者漫画の金髪髷野郎に似た口調で呟き、空を見上げる。


『(そぉいやぁ、KING DOM HEART新作、もうすぐ出るな…。BBSもクリアしたし、楽しみだな。)』


ゲームショップのポスターを見ながら、そんなことを考える。



「っきゃぁぁぁあああ!だれか、だれかぁっ!」


真っすぐな道の先に、女の人が倒れていた。

その女性の先にはまさに犯罪者と言った格好の男が、黒ずくめの格好には似つかわしくないバックを持って走り去るところだった。


真っ直ぐ――のもとに走りよる犯人。

少し離れたところで上沢が――の名前を叫ぶ。

――は体を横にずらし、犯人に道を開ける――――――と見せ掛けて、タイミングをあわせ、犯人に足を引っ掛けた。

見事にずっこける犯人。
それを見てそれまで緊張の面持ちだった周りの人も、思わず吹き出す。

『おら、そのバックよこしな。』


いわゆる不良座りをして犯人に詰め寄る。


「っ、」


もともとあまり目付きのよろしくない――に、犯人も少しびびる。

だがすぐに持ち直し、懐に手を突っ込むと、サバイバルナイフを取り出した

『なっ、』

驚く暇もなく、腹部を深く切り付けられる。

そのまま逃がせばさらなる被害は間違いないだろう。


咄嗟の判断で、――は自分に背を向けた犯人を後ろから蹴りあげ、そのままサバイバルナイフを持つ手を全力で蹴った。


カランカラン、と音をたてナイフが落ちると、周りにいた人が男を取り押さえる。


――はそれを見届け、安心したのか簡単に意識を手放した。


最後に見たのは、顔面蒼白でこちらに走る上沢と、引きつった表情でその場に崩れ落ちる春香だった。
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