暗闇の中で…(上)
□【車いすの少女】
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案内された病室は3階で、6人部屋。
俺のベッドは窓側で、部屋には他の患者は居たが、ほとんど年寄りばかりで、息が詰まりそうだった…
「田辺さん。今日は午後から採血とエコーかけます。明日は、胃のレントゲン撮りますので、朝食はありませんから我慢してくださいね。あと、夕食以降は何も口にしないでくださいね」
「本当?何も食べれないの? 仕方ないか、夜は酒も飲めないんだろ?」
「当たり前です。検査って言っても、ちゃんと調べるためなんですからアルコールは厳禁ですよ?」
「はいはい…」
返事をしながら、ふと窓の外を見ると、中庭が広がる…
目線をその中庭に写すと車椅子に乗った女の子を看護婦さんが押しているのが見えた…
何かが気になって看護婦さんに聞いてみた。
「ねえ、あの子は? なんだか不思議な気がして気になるんだが…」
「あぁ、愛ちゃんですね…前の医院長が連れて来た子で、私は担当でないから詳しくは知らないけど…でも、彼女、お話しする事も見ることも出来ないんです。」
「植物人間ってやつかい?可哀想だな…前医院長の孫かなんかかい?」
俺の質問に、少し戸惑いながらも看護婦さんは答えてくれた。
「正確には植物状態ではないんです…意識的に見たり聞いたりを拒んでる…そんな感じなのかなぁ…それに、前医院長は行方不明で、あの子も、何処の誰だか、身寄りもなくて…」
「医院長が行方不明? なんだか妙だね?」
「あ、今言った事、内緒にしてくださいね。」