Book 2

□curve mirror
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不倫はキモチイイもんじゃない

相手の奥さんに申し訳ないし
結局“ひとり”を強調するだけで
誰も得をしない意味のない行為である

それでも私がはまってしまっているのは
相手が言う
「いつか離婚して君と結婚するよ」
とゆう魔法の言葉のせいだ


三月 卒業の季節

幼なじみが結婚した次の日
私は不倫相手の車の助手席にいた


『昨日さぁ
 幼なじみの結婚式だったんだよ
 花嫁の手紙のとこで泣いちゃってさ
 みんな私見て笑ってたんだけど
 ほんと感動するほど良い式だったよ』

「へぇ。そんな良かったの?」

『うん。ドレスとかすごく綺麗でさ
 私もあんなの着たいなって…あ、ゴメン』

「謝んないでよ。悪いのは俺だし」

『先輩は悪くないですよ。悪いのは
 人のもの取ろうとしてる私ですから』


笑顔で言えた 上出来だ自分

それでも先輩はゴメンって呟いて
前を向いたまま喋らなくなってしまった



着いたのは海

初めてのデートもここだった
青がそのときより深いような
そうでもないような複雑な色をしていた

まだ少し風が冷たいから
靴を脱いで入ろうとは思わない
でも海の感触を知りたくて手をつけた


『なんでかな』

「何が?」

『塩分が全然違うはずなのに
 普通の水と同じような気がする』

「そうか?
 俺は水と違うように感じるけど?」

『そうかなぁ』


そろそろ帰ろうか。という先輩を
私は服の裾を引っ張って止めた


『私、電車で帰ります
 ここ来るとき駅見たんで大丈夫です
 これが最後だって知ってますよ
 先輩、パパになるんですよね
 おめでとうございます
 先輩なら優しい良いパパになれますよ
 これまで優しくしてくださって
 ほんとうにありがとうございました』


笑顔で言えた 上出来だ自分


駅まで1km

急いでいるような先輩の車が
歩いている私の横を通り過ぎる

そりゃそうだ
海に着いた時からずっと
奥さんからの電話が何度も鳴っていた


駅まであと少し

このカーブミラーを曲がったら
私はきっと終われるはずだ


この冴えないカーブミラーの先に
暖かい春があるといいなと思った









curve mirror
(悲しい未来がみえる直線よりも)

 
 

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