オリジナル

□広川さんと俺。
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昼休みが終わって30分、授業で一番眠たい時間がやってきた。
俺はこの眠気に打ち勝つことはできずに、すやすやと眠りに落ちてゆく。


…というのはつい一週間前までのことで、今はちゃんと目が覚めている。
まあ…授業を聞いているかどうかは、また別の話。


「広川(ひろかわ)さん、広川さん」


俺は机の上に寝そべりながら、隣の席の広川さんに話し掛けた。

広川さんは、肩まで伸びた黒髪ストレートで、「クール」という単語がこの教室で一番似合うであろうお方。

俺の呼び掛けに気付いた広川さんは、俺の方をちらりと見る。が、すぐに目をそらす。


「無視しないでよ広川さん」
「してません。反応はしたじゃないですか」


広川さんは表情も変えずに、黒板を見ながら言う。

俺は、そっか、と思いながら頭をポリポリとかく。


「何してんの広川さん」
「ノートをとっているんです。霧田くんも少しくらいノートをとったらいかがですか」

万年適当野郎の俺と違って、真面目な広川さんに、授業中に寝るという思考はないらしい。

一週間前の席替えで隣同士になってから、授業の内容なんて3分の1も頭に入っていない俺の横で、広川さんはいつも忙しくノートをとっている。

一番後ろの席で、よく寝ずにいられるなと、不思議に思ってしまう。


「暑いね広川さん」

7月。

校舎の2階の教室は、風通しが悪い上に、公立のビンボー高校にエアコンなんぞついているはずもない。

生徒にとっては拷問でしかないだろうし、数学のおじいちゃん先生なんて、いつ魂を持っていかれるかってほどにハラハラする。

最早授業なんて聞いている生徒が半分いるのかも微妙なところなので、先生たちも心なしか適当に話をしているようにも思える。


そんな中で、広川さんは明らかに授業をちゃんと聞いている。

真面目ってスゲーなって尊敬する。

「暑くないの?広川さん」
「暑いですよ」

そうは答えるも、相変わらず涼しい顔。

多分この人は、ミスとか絶対しないんだろうなっていう完璧超人だって思わせる品格というか…そう思わせる何かを持っている。

頭悪い俺にはよくわかんないけど、例えば、四字熟語なんかで表せば…

「霧田くん、油断大敵」

「え?」


その瞬間、俺の顔面に白いチョークが飛んできた。

ほんとだ…油断大敵…スゲーな広川さん…。

てゆうか、今時チョーク投げる先生っているんだね……


猛スピードで走ってくるチョークを顔面でまともに受け止めたせいか、授業の終わりを告げるチャイムが遠くで聞こえた気がした。



*あとがき
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