オリジナル

□少年よ、大志を抱くのも良いが小さな夢も見ろ
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「…しょ……しょ……、篤人(あつと)〜、これなんて読むの〜?」

「コクショ」


今年の夏は、それはもう暑い。

前例がないほどの暑さで、今まで「暑さ」を表すうえでトップに君臨していた「猛暑」ではおさまりきらず、「酷暑」という新しいランクの暑さができたらしい。


そうやって新人がノコノコ出てきて、今まで必死ではい上がってきた「猛暑」を鼻で笑うかのようにてっぺんに座るような「酷暑」の態度は、俺的にはどうかと思う。


いや、実力がモノを言う時代に生まれてしまったのだから、仕方ないといえば仕方ないが。



「コクショってなに〜?」

「………」

「篤人〜、コクショってなに〜?」


俺の部屋にずけずけとあがりこんできたこの男は、俺の「いとこ」らしい。


父の姉の姉の姉の姉……つまりは、ただ父の姉の息子なんだそうだ。


こいつは北海道民なのだが、今は俺の家に住み込んでいる。



なぜこの糞暑い夏の東京にわざわざやってきたのかというと、早い話、受験勉強のためだ。


そんなら尚更涼しい北海道で優雅に勉強しやがれコノヤローとも思うのだが、問題はその、北海道の実家にあった。



こいつの家は家族が多い。


父、母、姉(25)、姉(23)、姉(20)、姉(18)、姉(17)、そして、こいつ(恵一(けいいち))。


異常なほどの女台頭家庭なため、男である大黒柱・父と、末っ子・恵一のもろもろの権利は、常にゼロと言っていい。


家の中には、いつでもピーピー声がこだまする。


そのため、受験生の夏の間だけでも、ピーピー声から逃れるために、父、母、俺、弟のごく普通の家族構成の我が家に送られてきたわけだ。
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