テニスな本棚
□跡部と神尾
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喧嘩にもならない討論戦は、飽きることなく頻繁に発生する。
言い争いは、もはや日常の一部だった。
…ただ。
「もういいよっ!」
ただ、低く響いた捨てゼリフは今日ばかりは別なもので。
「…跡部なんか嫌いだっ」
自慢の足を翻すと、神尾はあっという間に跡部の視界から姿を消して。
そのあまりの俊敏さに、跡部は言葉をかける暇もなく…いや、声をかけることも忘れて立ち尽くしていた。
キライ。
どんなに酷い言い争になっても、決して言われた事のない言葉は鼓膜を突き抜けて、心臓を突き破った。
情けねぇ。
この俺が、たかが一言にここまで動揺してるなんて。
「…嫌い、か」
どちらかと言えば。神尾は好きを伝えるのが下手だった。
だか下手なりに態度や言葉や行動で、神尾はいつだって好きを現していたのに。
考えればおかしな話。
同じ表現下手でも、自分は神尾に嫌いなどと言った覚えはないが、好きだと伝えた事実もないのだ。
これでは、フェアじゃないとアイツが言い出した訳も分かる。
前々から我慢していたであろう、不満や不安に、今の今まで気付かなかったのは、俺の失態だ。
──眼力が聞いて呆れる。
「…自業自得か」