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□幸せだねぇ
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数日前、彼はここに来たときにポツリと呟いた。


嫌な予感がする、と。



彼の久々に見た暗い表情を思い出しながら妙は自宅の縁側で座りながら空を見上げた。



空は今にも雨が降りだしそうな厚く、薄暗い雲で覆われている。

こんな天気を見るとなにも手につかなくなり、胸がざわつく。



「…なにもなければ良いけれど…」




こういうときの嫌な予感はあたっちまうんだよ。



諦めたような微笑を称える彼を抱き締めた。

弱音を吐かない彼が、今にも消えてしまいそうで怖かったのだ。



「…銀さん…」



消え入りそうな声で呟き、苦笑する。




「もっと強くならなきゃだめね」


彼に頼ってもらうために。

 
彼に安堵と平穏を教えるために。



穏やかな笑みを称えるも、一向に胸のざわつきが消えない。

ふぅ、と一息を着いた時、ドタドタと廊下を走る音に気が付いた。




「…新ちゃん?」

行儀が悪いと注意しようと顔を向けたのだが、小言が喉で止まった。


そこには見たこともない表情をした新八がいたのだ。




「姉上!!」


焦ったように、でもどこか怒っていて、泣きそうな表情。


困惑している妙の前に着くと、必死で呼吸を整えようとしている新八。



それにハッとして、慌てて水を取りに行こうとする妙。


だがそれは新八によって止められた。


 
「…銀さんが…!!」



ドクンと。

妙の心臓が嫌な予感に跳ねた。




聞いてはいけない。
この先を、聞いてはいけない。




頭の隅で誰かが呟いた気がした。

でも出てきた名前は愛した人。




「…どうし――…」

「真選組に捕まったんです…!!」




ポロリと、涙を一筋流しながら叫ぶように言った新八。


妙はなにも言えなかった。

否、理解ができなかったのだ。



「…真選、組…」


なぜと、理解した瞬間、疑問が頭の中をグルグルと回る。


まだ、頭の中の警鐘は鳴り止まない。







「白夜叉ってよばれて…!!そしたら、天人大量虐殺の罪でって…ッ…!!」


彼は断片的に過去を妙に語っていた。


 
時折思い出したように語るのだ。
彼が言っていた。





『白夜叉は勝利の象徴だったよ』

過去を語るとき、彼は自嘲気味な笑みしか浮かべなかった。


過去の自分を哀しそうにしか語らなかった。





『仲間を護るために斬って、斬って、斬ったけどよ…、』




真っ赤に染まっていると言っていた手を空に翳し、なにかを掴もうと足掻いていた。



『結局は殺戮を繰り返してた殺人鬼の名なんだよ…、白夜叉ってのはね』




彼は過去を語るとき、己の目を見たことはなかった。





拒絶を恐れたから。

侮蔑を恐れたから。

畏怖を恐れたから。

恐怖を恐れたから。





 
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