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□夜叉と呼ばれし
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知っていた、はずだった。



彼は侍だから。

自分が惚れた“侍”は真っ直ぐな魂(ココロ)を持ち、汚れなき魂を持っていることなど知っていた。


それを護るためになにをして生きていたのかも、知っていた。



どんなにその手が、紅く染まろうとも差し出された手を振り払うことなど出来ない。




「―――…銀さん、が…」




今、妙の前に真剣な面持ちで座り、伝える土方の姿が。

その隣にはどこか沈んだような沖田が。






「…どこに行ったかはわかっちゃいねぇ」

「でも俺たちは追わないと決めやした」

「…追わない、のですか」





…どこか、あの人に似た瞳をした二人だった。

あの人が護ったのは、彼らの志。



「…姐さん、すいや―――…」

「言わないで…ッ!!」




沖田が悔いたように頭を下げようとした。

だがそれを妙が制した。
驚き、思わず妙の顔を見た沖田は息を呑んだ。



隣の土方は微動だにせずじっと妙を見ていた。


 
「そんな言葉、聞きたくありません!」



妙は怒っていた。

…当然だろう。



自分は、この人からあの人を奪ったのだから。




「あの人を、銀さんを否定しないで…!!」





―――――…え?


わけがわからず、沖田は困惑した。


深く息を吸い込み、一旦間を置いた妙は真っ直ぐに沖田を見据える。



「沖田さん、あなたはなにに対して謝ってるんです?」

「なにって…」

「総悟」

「…土方さん?」







静かな土方の呼び掛けに困惑する。


土方は妙から視線を外さず、沖田に言葉を投げ掛ける。



「今、この場で、妙に謝ることは、銀時に対する侮辱だ」

「…え?」

「総悟、お前はあの時、なにを思ってあいつに、あいつらに、刀を向けた?」




…それは―――――…

「…自分の、“誠”を護るためでさぁ」





そこまで言ってはっとした。


自分はなんてことをしようとしたのだろう。




「…銀さんは、真っ直ぐな魂を持った侍です」


ぽつりぽつりと語る妙から視線が外せなかった。






女だからと、生意気言うなと言えるわけがない。




彼女がどれだけの覚悟で、度量で、彼を見ていたのか。





「…ッ…」



今、自分の浅はかな考え方で、彼女だけでなく自分が尊敬する男さえも傷つけるところだった。




強く唇を噛み、未熟すぎる自分を恨んだ。



「でも、やっぱり、なにが正しいかなんて誰もわからないんですよ」




クスクス笑い、思い出すように沖田に言い聞かせる。




「あの人は…銀さんは、それでも自分の武士道(ルール)を貫き通し、綺麗だったでしょう?」





あぁ、綺麗だった。

ぐっと目頭が熱くなり、俯く。


 
「だから、私があなた方に言えることはこれだけ」



すっと背筋を伸ばし、綺麗な姿勢をとり、凛とした表情をとる。




「完璧とまではいかないは。でも―――…」


ふわりと笑う。




「己の武士道(ルール)を、魂(ココロ)を、誰にでも胸が張れるように生きて、いつかあの人にあったとき―――…」



そんな可能性、ないかもしれない。

でもあるかもしれない。




俯けていた顔を真正面に戻し、背筋を伸ばす。





「誇れるように、してください…」







どこか哀しみを帯びた妙の表情に、胸が苦しくなる。














…どうか、今日だけは―――…


「絶対、旦那のように生きてみせまさぁ…!!」


彼を思って涙を流すことを、許してください…。




 
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