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□あばよ、―――
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「なんでぃ、これは…」



噎せ返るような鉄の臭い。

真っ赤に染まった路地裏。

その中心に転がる人“だった”ものたち。




「―――…通り魔にしちゃ、派手だな…」



眉をしかめながら土方が周りを伺う。



日が昇って幾ばくかもたっていない早朝の、血生臭い事件。


深夜に起こったと見られるこの事件は“悲惨”の一言に尽きる。


連絡があり、駆け付けた土方らは目の当たりにした光景に眉をしかめた。


中には余りに酷すぎるこの光景に、吐くものまで現れた。



「―――…第一発見者は?」

「…それが」


土方の問いかけに困ったように頬をかく山崎。


「?どうしたんでぃ」

「…はい、発見者は新八くん、です…」

「…万屋んとこの眼鏡か…」



 
発見者は新八。




朝、万屋に出勤する途中に異変を感じ、行ってみたらこの惨状だったという。


朝からこんなもんを見るなんて、ご愁傷さまでさぁ。

って、俺たちもか。

そんなことをぼんやりと考えていた沖田は、土方の顔がどんどん険しいものに変わっていくのに気が付いた。



「…どうしたんですか?」


山崎も気付いたのか、問いかける。


「…こっちの方角に、万屋はあったか?」


そこで、沖田も山崎も息を呑む。


「―――…駆け付けた、って…」


困惑した様を隠せずに山崎が言う。




 
少し、道が逸れただけかもしれない。


いやきっとそうだ。



―――…そうであって、ほしい。




「眼鏡のガキは?」

「…それが、旦那が、」

「…万屋が?」

「既に迎えに来ていてですね、すぐに帰ってしまいました」

「来ていた?」




連絡もしていないのにか?



おかしいじゃないか。


それではまるでわかっていたみたいに…。



「―――…副長…ッ!!」


遠くから焦ったように駆けてくる隊士が一人。





「どうした!?」

「それが―――…」


土方の耳元でなにかを囁いた隊士の顔色は酷く青白い。

報告を聞いた土方は逆に顔付きを鋭いものに変えた。




「―――…ホントか」

「はい。姿も確認されています」

「土方さん?」



 
いつになく緊迫した空気を纏った土方は沖田と山崎を振り返り、固い声音で言う。






「…高杉が、鬼兵隊を連れて江戸に入った」


タイミングが、良すぎやしないか?


早朝に起こったこの事件で、真選組の監視が緩んだこの瞬間に?



「―――…嫌な予感がする…」



 
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