春夢録
□第七章
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夕方−−−
屯所内が急に騒がしくなった。
なにかあったのかな?
『あの、新八さん!』
廊下を歩いていた新八さんを引きとめ、話を聞いてみることにした。
『…その五寸釘、何に使うんですか?』
新八さんが手にしていたのは五寸釘とロウソク。
私の頭の中には想像したくもない映像が流れる。
「長州の間者を捕まえたんだけどよ、なかなか口を割らねぇらしいんだ」
『……あの、もういいです。すみません』
私はなんとなくその先の言葉が分かってしまった。
あまり考えたくないことだから、話をさえぎった。
「こういうことは、あんまり話すことじゃないな」
新八さんは苦笑いを浮かべ、歩いて行った。
陽が完全に落ち、夜になった。
屯所内は、さらに騒がしくなり部屋に居た私と千鶴は広間へ移動した。
「平助君!」
千鶴が広間に居た平助を呼び止めた。
「何かあったの?長州の間者って人から、何か情報でも聞き出せたとか?」
「今夜、長州の奴らが会合するらしいんだ。で、オレらは討ち入り準備中ってわけ」
平助は少し浮かれた様子で千鶴に話した。
『討ち入りって何??』
この世界に来て間もない私にとっては、分からない言葉だった。
平助は少し考えて、私にわかりやすく説明してくれた。
『簡単に言えば、敵が居る場所を攻めるのね?』
「そうそう!で、土方さんたちの行く四国屋が当たりっぽいよ。…オレは逆方向だから、ちょっと残念だなあ」
肩を落としながらも、平助は他の動ける隊士達と屯所を後にした。