御題
□恋する動詞111題
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3.諦める
*
突然だった。
──私のこと、本当は好きじゃないでしょう?
だから……、ね?
別れよう──
そう言い残し、彼女は去っていった。
俺は状況が飲み込めず、ただ去ってゆく彼女の背中を眺めてた。
出会いと別れの春と言うが……。
「本当だな」
天井を見上げながら手塚はそう呟いた。
──彼女との出会いはよく覚えていない。
同じ高校の同学年なのだから春なのだろうが。
数ヶ月前に告白をされて、何となく付き合っていた。
そして今日振られた。
ちゃんと好きだと思っていたが、彼女の言う通りそんなに好きではなかった気もする。
──要するに、彼女の存在自体がどうでも良かったのだろう。
当たり前だ。
俺の大切な人は、父、母、それから──
手塚は首だけを動かして学習机の引き出しを見つめた。
──あの男のことは、どうなんだろう。
大切なのか否か。
……いや、違う。
そんな訳ない。
あの男は敵だ。
敵なんだ。
だから、いい加減──
その瞬間一粒の涙が頬を伝う。
誰に見られているはずもないのに何故か慌てて袖で涙を拭った。