図書館戦争

□First kiss.
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 ──もしもタイムマシンがあったら。
 ある日の休憩時間、堂上班はそんな話題で盛り上がっていた。
「あたしは結婚式のときにもう一回戻りたいかな〜」
 これは俺の部下でもあり妻でもある郁の意見だ。
「ああ、笠原さんのマーメイドのドレスが綺麗だったよね。背の高い女性はああいうかっこいいドレスが映えていいね」
 これは俺の同期の小牧の意見。
 ……冗談じゃない。
「一人で戻れよ、俺はごめんだ」
「何でですかっ!堂上教官あたしとの結婚式が嫌だったんですか!」
「それをお前が訊くのか!」
 郁は首をすくめた。
 俺だって好きな女と式を挙げられることができたし、よかったと思う。
 ──最終的には。
「でもそれあたしのせいじゃない……」
 なぜ最終的には、なのか。
 披露宴会場で「よっ、王子様!」とからかったヤツらがいたからだ。
 堂々と、互いの両親の前で。
 早く披露宴が終わってほしかった。
 しかし、なぜかは解らないがその結婚式の日を境に郁の母親との壁が無くなった。
 ……まぁ結果オーライだ。
「じゃあ堂上教官はどこに戻りたいんですか?」
 郁は話を堂上に振った。
 ──もしもタイムマシンがあって、過去に戻ってひとつやり直すことができたとするならば。
 俺は──



「泣くな。笑えよ。ここからお前一人で警護するんだ。しっかりしろ」
 そう言って、自分でも驚くほど白くなった指でニ正の階級章を郁の襟に着けた。
「お前、カミツレ欲しがってただろう。貸してやる。必ず返せ」
 必ず返せ。
 口ではそう言ったが、なんとなく郁に会えるのが最後のような気がした。
 呼吸をするだけでも辛い。
 身体も重くてほとんど動かない。
 もしかしてこれが最期か、なんて縁起でもないことを思う。
 いつものように郁の頭に手を乗せる。
「大丈夫だ。お前はやれる」
 郁の頬に涙が伝う。
 茨城の書店で検閲から助けた時に見せたのはきっと嬉し泣き。
 教育期間中にどっちが捕獲者かともめ合った時に見せたのは恐らく悔し泣き。
 今流しているのは──
 そんなことを考えていた時、突然郁が襟をつかんだ。
 引き寄せられ、そして──唇が重なる。
 最初、俺は何が起こっているのかわからなかった。
 しかし、確かに俺は可愛い部下でずっと想い続けてた女とキスをしていた。
 まるでやり方を知らない、重ねるだけのぎこちないキス。
 だけど、冷めた俺を温めてくれるような優しいキス。
 手の甲に涙が滑り落ちた。
 その時初めて郁と手を重ねていたことに気付いた。
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