図書館戦争

□A special relation.
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 この時間ならあいつは絶対あそこにいる。
 柴崎は小走りで共同区間のロビーに向かった。
 ──やっぱりね。
「手塚」
「……柴崎か」
 ソファーに座り新聞を読んでいた手塚が振り向いた。
 風呂上がりなのだろう。
 髪が濡れていて滴が飛んだ。
「明日は俺──」
「違う違う。飲む約束じゃなくって……これ」
 柴崎は右手に持っていたチケットを見せた。
「試写会のペアチケット当たったの。一緒に行かない?」
 手塚は眉間にシワを寄せる。
「笠原は?」
「大学の友達と遊ぶ約束しちゃったんだって」
 手塚はしばらく黙っていた。
「──わかった」
 そう言ってチケットを一枚受け取った。



「どうだった?」
 部屋に帰ると郁が真っ先に訊いてきた。
「行ってくれるって」
「そっか。良かったね! ……あたし一緒に行けなくてごめん」
 こういう時この素直な同居人が可愛いと思う。
「先約があったんだから仕方ないじゃない。今度公休重なったら遊びに行こ」
「うん!」
 そう言ってから郁はテレビを点けた。
 柴崎は携帯を取り出す。
 メールの本文に待ち合わせ時間と場所を打ち、送った。
 ふと先ほどのやり取りを思い出す。
 ──あたしとあいつの関係って何かしら。
 少なくとも友達ではないのよね。
 だって友達なら──一緒に外出する約束に口実なんて必要ないもの。
 柴崎は溜め息をついてから携帯を畳んだ。



 待ち合わせ場所は試写会会場の最寄り駅だった。
 手塚はもう先に着いていて、音楽プレイヤーで何かを聴いている。
「手塚っ! お待たせ!」
 柴崎は手塚に駆け寄った。
 手塚はイヤホンを取りポケットにしまう。
「ごめん。どのくらい待った?」
「いや、全然。……行くか」
 手塚は柴崎の前を歩いた。
 ──ほらね。
 横に並んで歩かない。
 やっぱりあたしとあいつの関係はただの同僚……。
「柴崎」
 ──不意討ちだった。
 突然、手塚が柴崎の手を握った。
 顔が紅潮する。
「人、すごいから……」
 逸れる、と言いたいのだろう。
 手塚の顔は後ろを歩いているため見えない。
 ──今、どんな顔をしているのかしら。
 手塚は席に着くまで柴崎の手を握っていた。
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