御題

□恋する動詞111題
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1.焦がれる





「離せっ! それとも万引きの現行犯で警察に行きたいか!?」
 ワゴンに本を放り込もうとした良化隊員の腕を掴んだ時にそう言い放たれた。
 本屋の店長も良化隊員もブレザーの下に本を隠した理由が万引きではないことを知っている。
 それでもその台詞を浴びた時には身体が硬直した。
 でもこの手を離したら、この本は──
「いいわよ行くわよ! 店長さん警察呼んで。あたし万引きしたから。盗った本と一緒に警察行くから!!」
「う……るさい。離せ!」
 その時後ろに突飛ばされた。
 ──やばい、転ぶ。
 派手に尻餅をつくことを覚悟したが、その前に腕の支えが入った。
 見上げるとスーツを着た男性がそこに立っていた。
 懐から何かを取り出し、郁を突飛ばした良化隊員に対して高らかに宣言する。
「こちらは関東図書隊だ。それらの書籍は図書館法第三十条に基づく資料収集権と三等図書正の執行権限を以て、図書館法施行令に定めるところの見計らい図書とすることを宣言する!」
 ──資料収集権とか見計らい図書とか。
 そんなことはどうでもよかった。
 ただ一つだけ。

 ──正義の味方だ。

 彼の大きな背中を見つめながらそう思った。
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