図書館戦争

□Your dream.
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 郁や柴崎や小牧が働く姿を見て何度も何度も憧れた。
 しかし──障害という名の壁が立ちはだかる。
 音が聞こえない。
 それだけでかなりの路が閉ざされる。
 銃声は比較的よく聞こえるが、検閲に対する指示や利用者の声が正確に聞き取れるか判らない。
 ……つまり、私は……夢を諦めなければいけない。
 図書館に通う皆と同じ様に、私も本が大好きなのに。
 私はただ五感の一つを失ってしまっただけなのに。
 なのに──
 夢を諦めなくてはならない。
 そう思った瞬間、涙がこぼれた。
 郁はあわてて毬江に謝る。
「ごめんっ! あたし何か……」
「ち、違うんです! 二人とも全然悪くないんです……っ! ただ、私が──」
 聴覚障害を持ってるだけなんです。
 この台詞は自分から言うにはあまりにも辛すぎて言葉にならなかった。
 毬江の視線がだんだん下がっていく。
「──私、図書館員になりたかったんです。笠原さんや柴崎さんや──小牧さんみたいに。でも……私は耳が悪いので図書館員にはなれないんです……」
 郁と柴崎は言葉を失った。
 図書館に勤めている者なら分かる。
 図書館員にはリクエストやレファレンスなど、利用者の声を聞く場面が多い。
 ──大丈夫、なれるよ。
 そんな半端ことは言えなかった。
「……でも、もういいんです。私には夢を見ることなんてできないって分かってます。だから適当に聴覚障害者のケアが良いところに──」
「駄目だよ、毬江ちゃん」
 その時、毬江は郁がここまで強い口調で反論したのを初めて聞いた。
 驚き、毬江は視線を上げる。
「夢を見ない、なんて──絶対に駄目」
 郁は真っ直ぐ毬江を見つめる。
「夢は見るものなの。……たとえ叶わなくても。その夢を諦めても、人は次の夢を見るものなの」
 次の夢──
「毬江ちゃん」
 毬江は柴崎の方を向いた。
「あたしも諦めた夢は沢山あったわ。でもね、沢山の夢を諦めていく内に気づいたの。──自分に与えられた範囲の中で夢を叶えればいいって」
 自分に与えられた範囲──
「──わかりました。次の夢、頑張って見つけてみます!」
 そう言ってから毬江は紅茶を一口飲んだ。



「……ほう。なかなか良いじゃないか」
 提出した進路希望調査書を担任の教師に褒められ、毬江の顔の力が緩んだ。
「はい。ノートテイクもあるし、それに──本が好きなので」
 毬江の目は希望に満ちていた。

fin.

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