図書館戦争

□Childhood friend.
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 内勤の日の朝、閲覧用の新聞をバインダーへ挟む前に目を通す。
 郁もいつものように新聞を読んでいた。
「──え?」
 皆新聞を読むのを止め一斉に顔を上げる。
「い、いえ……何でもないです!」
 郁が新聞に視線を戻したので、周りも再び新聞を読み始めた。
 しかし郁はすぐに新聞を閉じ手塚に話し掛ける。
「手塚。そっちの新聞貸して」
「……お前も新聞持ってるだろ」
「今度はそっちが読みたくなった! いいから貸して!」
 郁は手塚から半ば強引に新聞を取った。
 広げたのはスポーツ欄である。
「──ない」
 一通り目を通した後郁はそう呟いた。
「ごめん、もういいや。堂上教官! 新聞貸してください!」
 今度は堂上の元へ駆け寄った。
 堂上は無言で新聞を渡す。
 郁が広げたのはやはりスポーツ欄だった。
「何を探してるんだ?」
「いえ、ちょっと……あ! あった!」
 郁はあるスポーツ選手のプロフィールを指で指した。
「最近話題のスポーツ選手だよね」
 小牧が横から入ってきた。
「え? そうなんですか?」
「あれ? 知ってて探してたんじゃないの?」
 郁は腕を組んだ。
「う〜〜ん。知ってるような、知らないような……」
 再び新聞を手に取り写真を見せる。
「……この人、私の幼馴染なんですよ。……多分」
「多分って何だ、多分って!」
 すかさず手塚が突っ込んだ。
「だって名前覚えてないんだもん!」
 ──郁の記憶は幼稚園に入る少し前から始まっている。



「郁、お兄ちゃん達が帰ってきたわよ」
 郁は兄達が通っている幼稚園の送迎バスを母と手を繋ぎながら待っていた。
 一番上の兄と二番目の兄は小学生で、下の兄だけが幼稚園に通っている。
 バスが郁達の目の前に停まり、ドアが開いた。
 二人の園児がバスから降りる。
 一人は郁の一番下の兄、もう一人はその兄の友達だった。
「いくちゃん!」
 毎日母と一緒に兄の送り迎えに来ているため、彼に名前を覚えてもらえた。
「こんなヤツ、『いく』でいいのに」
「え〜〜。でも女の子だよ。『ちゃん』って付けないと」
 よく二人でそう言い争っていた。
 両親からも兄からも郁は呼び捨てをされていて、『いくちゃん』と呼んでくれたのは当時彼だけだった。
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