図書館戦争

□Love is insufficient.
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 帰宅すると奥から足音が近づいてきた。
 ドアを開けると「お帰りなさい」と返ってくる。
 結婚したばかりの頃はそれが愛しい彼女の声でなかなか慣れなかったが、最近はそのことに幸せに感じる。
 しかしその日の彼女の第一声は違った。
「ただいま」
「ねえ、光」
「ん?」
 すぐ側に居なければ聞き取れないほど小さな声で柴崎は呟いた。
「……キス、してよ」
 一瞬何を言っているのか分からなかった。



「郁」
「篤さん、勤務中ですよ……」
 それよりもそこの二人、会話が丸聞こえですよ。
 ──なんて。
 いつまで経っても新婚同様ラブラブ夫婦に言ったって何にもならない。
 会話は聞こえないが気配は感じ取れる。
 きっとキスでもしているのだろう。
 ちょっと前の自分なら割って入って二人をからかっていたに違いない。
 しかし今はそんな気はちっとも起きない。
 自分でも理由はなんとなく分かる。
「いいなぁ……」
 思わず声に出してしまった。
 咄嗟に二人の死角に隠れる。
「……あれ?」
「どうした?」
「今、柴崎の声が聞こえたような気がして」
 しまった、と後悔してももう遅い。
 郁と堂上は事を終わらせて柴崎の姿を探している。
 柴崎は気配を消そうと息を止めた。
「気のせいかなぁ?」
 そうです、そうですとも。
「そうじゃないか?」
 はい、そうです。
 だからジャマ者はとっとと消え去ります──
 柴崎は足音をたてないようにその場から離れた。
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