作品2

□殿といっしょ
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※オリキャラ×ヨシヨシです



 ――どうしよう……。
 三好吉宗は眉尻を下げ、自分を囲む人間達を改めて見回した。彼らはどう見てもせいぜい中学生くらいだろう。子供が四人、頭や首に黄色のバンダナを巻いており、手には折り畳み式のナイフ。先程からこちらに小遣いをせびってくるが、赤の他人だ。
 要するに、三好は黄巾賊の中学生にカツアゲされていた。
 もちろん犯罪に屈する気は無いが、いくらなんでも中学生相手に警察を呼ぶのは情けない気もする。いい大人が同じ行為をするのは問題だが、目の前にいるのは反抗期真っ盛りのお子様だ。分別がつかない子供の若気の至りといえばそうだし、それをいきなり通報は些か可哀想かもしれない。かといってストレートに「こんなことしちゃ駄目だよ君達!」と叱るのは相手の神経を逆撫でするだけだ。幸い自分の方が身長があり、いざとなれば強行突破も可能だろうが、相手が刃物を持っている以上双方に怪我人が出る可能性もある。
 ――どの選択肢が一番マシなんだろう。
 ズレたことを悩みながら三好は黙りこくった。勝てる相手を選んだはずの中学生達も、予想外の無言の抵抗に苛立ちを募らせている。
「てめー黙ってんじゃねーよ!」
「こいつガン飛ばしたぞ。なんだよやんのかよ!」
「さっさと金出せよ!」
 特にガンを飛ばしたつもりはないのだが、これ以上余計な誤解をされても困るので、三好は指摘に従い目をそらした。言う通りにしたはずなのに、中学生達は「こっちを見ろ」と騒ぎ立てるのだから堪らない。中学生達は脅し文句らしい言葉を喚いているが、変声期もまだのボーイソプラノでは迫力に欠ける。もしかしたら小学生ってこともあるかも、と三好はまた脱線したことを考えた。
「――なぁ、ボク」
「あぁ!?」
「なんだテメェ!」
 目をそらしていた三好は気付かなかったが、勇敢にもこの集団に近付く人物がいた。謎の人物はポンと後ろから中学生の肩を叩く。
 中学生達が威嚇の声を上げるのを聞いて初めて、三好はその人物の方を見た。
「ひっ……!」
 先に振り向いた中学生達は顔を蒼白に染め、絶句していた。思わず三好も似たような反応をしそうになる。
 そこに立っていたのは中学生が見上げるには首が痛くなる程、長身の青年だった。三好ですら見上げる程なので優に180センチを超えるだろう。青年はスーツを着ているが、それがむしろその下の筋肉を引き立てている。中学生が太刀打ち出来る相手じゃないのは明白だが、彼らが怯えた理由はそれだけではなかった。
 短いスポーツ刈りの頭に、メタルフレームの眼鏡の奥の三白眼。中学生達を射抜く眼光は猛禽類を思わせる。
「そっちの兄ちゃん、俺のツレやねんけど。なんか用か?」
 しかも青年は、この辺りではあまり聞き慣れないイントネーションの言葉を話す。いわゆる関西弁というやつだ。
「なんで黙ってんねん? なんか用か、って聞いとるやろが」
「ご……ごめんなさいぃっ!」
 その顔と口調はもはや関わってはいけない職業の人間そのもので、中学生達が応戦出来るはずもない。唇を震わせながら頭を下げるなり、中学生達は徒競走でもしているかのように逃げ出してしまった。
 困ったのはこの青年と共にとり残された三好だ。こちらの青年も中学生達と同じく、赤の他人である。もしも危険な職業の人間だとすれば、助けたことをネタに揺すられるのではないか。
「なあ兄ちゃん。兄ちゃんってば。聞いてる?」
「はい?」
 ますます良くない事に巻き込まれるのではと危ぶんでいた三好に、青年が少しかがんで顔を覗き込み手を振った。唐突に厳つい顔によって現実に引き戻された三好は身体を強張らせる。
「いや、せやからな。もしあいつら戻って来たら怖いやんか。せやからはよ逃げへん?」
「え?」
 青年は先程とは違い、情けない表情で笑ってみせた。
 怖い? 何が? と三好はクエスチョンマークを浮かべる。相手はたかが中学生だというのに。
「あの……怖いって、なんでですか?」
「なんでって俺めっちゃ喧嘩弱いし痛いん嫌いやもん」
 これはいよいよおかしい。どう考えてもこの筋肉隆々の青年があの中学生に負ける訳がない。三好が目を瞬かせると、青年はまるで思考を読んだように顔を歪め抗議の声を上げた。
「自分、人ぉ見た目で判断したらあかんで! 俺のことヤクザかなんかやと思てるやろ! 俺まだ学生やで! 大学生!」
「え……!?」
 三好は思わず青年の顔をまじまじと見てしまった。どう見ても学生には見えない。並の大学生とは迫力が違いすぎる。
 しかし、確かによく見れば青年はいかにも就活生という出で立ちだ。おそらく東京にやって来たのもそのためだろう。
 驚いている三好に、青年は慣れているのか頭をかいて説明した。
「なんか知らんけど、よー間違われんねん。顔怖いーゆうて。近所のガキにはオッサンや言われたりするし。さっきもオバチャンに道聞いたら叫んで逃げられてん」
 どう反応していいか分からず、三好は曖昧に相槌を打った。確かに第一印象は思わしくなさそうだ。
「あ、そうや。はよ逃げなあかんかってんな。それとこのへんで一番美味いラーメン屋ってどこ?」
 青年は三好の反応など気にしていないのか、マイペースに早口で喋った。道を聞いたというのもラーメン屋の話だったらしい。それだけで悲鳴を上げられるというのだから気の毒ではある。この顔では仕方ないかもしれないが。
「……僕が美味しいと思ったところでいいですか?」
「まじで!? 教えてくれるん!?」
 見た目はともかく、三好が彼に助けられたことは事実である。その礼にと三好は以前食べた中で一番いいと思った店に青年を案内することにした。
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