土銀

□BirthdayPresent その後
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……逢いたい。

一人で過ごす夜。ふっ…と気を抜けば、あいつに連絡を入れそうな自分に焦る。

いつもの小競り合い。意地を張り合ったままで別れたあの日…。

結局その日を境に、お互いの連絡は途絶えてしまった。

今日には、明日には…?

明後日には連絡を入れてみようか…? 考えるのに。

連絡をした方が負け!

そんな意地を捨てきれないまま、銀時は毎日を過ごしていた。





※  ※  ※  ※  ※





手の込んだ誕生会への誘い。

白々しい狸寝入りをしている神楽と新八。必要以上に酒を勧めてくる真選組の隊士達。

双方の目論見に気付いたのは、沖田の姿が見えなくなった後だった。

トイレに行く……と言い残して、こっそり大広間から抜け出せば、玄関から神楽と新八の話し声が聞こえてきた。

『……私、眠ってる銀ちゃんにプレゼントは何が欲しいか3回も聞いたネ。最初はイチゴ牛乳とか大福とか言ってたアル。でも、本当にそれでイイかって聞き返したら、3回とも最後はニコチンの名前言ったネ……』

神楽の言葉に、思わず声を上げそうになった。

口元を片手で押さえて、聞き耳を立てれば、やがて二人が玄関から外へと出て行ったのが分かった。

追いかけようか――

少しだけ躊躇していると、新八と神楽の他にもう一人、沖田が居ることに気づく。

そして――

三人の会話で、銀時が知ったのが今日の宴の本当の狙いだった。









恥ずかしい……とは、きっとこういう心境をいうのだと、銀時は初めて知った。

年端もいかない小娘と、まともな恋愛などしたことのないアイドルの追っかけ少年に見抜かれてしまっていた土方とのこと…。それどころかこの場に居る隊士達全員がそのことを知っている…という事実。

考えると、とても素面でなど過ごせなくて、銀時は勧められるままに酒をあおっていた。

それでも…。

『お前らんとこの悩みなんて知ったこっちゃないヨ。私と新八は銀ちゃんの為にやったことネ』

神楽の言葉を思い出せば、自然に頬が緩んでしまうのだから仕方ない。









気が付けば、ガヤガヤと騒がしかった室内が、シ…ンと静まり返っていた。

同時に緊迫した気配が漂っている。

何が起こったのか…?

(そうだ、寝転がってたら、奴らが降って来たんだっけ…)

聞こえるのは、必死に何かを言い訳している山崎の声と、怒りを押し殺している…土方の声。

それがすぐに怒鳴り声に変わった。

『いい加減な事言ってんじゃねーぞ、テメェらァッ!』

怒鳴り声と共に、ドドッと大勢が一斉に移動した足音が響いた。

土方を諌めようとする隊士達の声も響く…。

(相変わらず短気なヤツ…)

声を出せば、土方はすぐにそれに気付いたらしく。

『気が付いたのか!?』

隊士達を怒鳴っていたのを止めて、すぐに声を掛けてきた。

(バレバレじゃん。恥ずかしい……)

でも、だからこそ解った。

土方も自分と同じ気持ちでいたのだ…ということに。













「ヤる!」

「ヤらねェ」

「ヤるって言ってんだよ! 俺は!」

ヤる、ヤらない…の押し問答。

ちなみに、「ヤる」と言って譲らないのは銀時で、「ヤらない」と言って引かないのは土方である。

「ヤらねェって言ってんだろ。ほら、これでも着とけ……」

土方は溜め息を吐きながら立ち上がり、ハンガーに掛けてあった自分の着物を投げて寄越した。

(う〜ん、押してダメなら……泣き落としか……?)

良い雰囲気だったのを壊したのは、銀時の背中に走った痛みだった。

気遣ってくれている。

それは嬉しいことだ。だが、この状況での優先事項にしてほしくない。

なのに土方は銀時から視線をずらしてこちらを見ようとしない。

だったら、銀時から行けばいいか…と、思い付き。

アルコールで力の入らない下半身と、極度に圧迫されて打撲のような痛みを訴える上半身に気合を入れて、こちらを見ない土方の目の前まで移動して…。

「って、何してんだ!?」

「何って。プレゼントを貰おうかと……」

銀時は自分から、土方の唇に触れてみる。

「煽ってんじゃねェぞ。お前…今、安静にしてねぇと明日から動けなくなんぞ」

「……大丈夫…だ」

「大丈夫じゃねーだろ。しゃべるのも辛そうなくせになに言ってやがる」

「……これはアレだ。背中と肩んとこ打った後遺症だ……」

けれど、触れてみたのはいいけれど、今度もまた土方は視線を逸らしてしまった。

これはもう、その気が無いということだろう…か?

銀時は、ゆっくりと土方の身体から手を離した。

傍からも離れようとして、

「……えっっ!?」

いきなりグイっと腕を掴まれて…。

「土方!?」

弾みでバランスを崩し、倒れそうになったところを土方に抱き締められた。

いきなり何しやがる!……文句を言おうとして。

「……あのな。こっちは我慢してやってたんだ。どうなっても知んねェぞ」

切羽詰った声で囁かれて、銀時は文句を飲み込んだ。

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