土銀

□青いんです4
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自宅に帰れば、シン…と静まり返る部屋が待っていた。

服を脱ぎ散らかし、寒さに震えながら、ベッドの中に潜り込む。

(……痛ぇ…)

小さく残っていた棘が深く刺さっていく…。

(何で…あんな顔見せんだよ……)


去って行った高杉の顔が、忘れかけていた棘の存在を意識させる。

痛い。

……痛い。

連絡を取り合っていなくても、遠く離れていても、友達じゃなくても、恋人じゃなくても、形はなくても…。

高杉とはどこかで繋がっている気がした。

それを自らの手で切ってしまったような罪悪感に苛まれる。

(……痛てー…な……)

眠れなくて、何度も寝返りをうつ。

チクチクと痛む胸をどう対処していいのか分からないままに・・・。









ヴーン、ヴーン、ヴーン・・・。

どこかから響く振動。

(………携帯……か?)

重い瞼を開ければ、室内は真っ暗で…。

自分の携帯はどこだ…と、探そうとして、不意に、自分の隣に大きな影があることに気付いた。

それがモゾモゾと動く。

(ッッ!!!!!!!?)

自分のベッドの中に誰かが入り込んでいる!?

(泥棒!?)

寝ぼけている頭が一瞬にしてパニックに陥る。

警察に通報? いや、その前に泥棒を捕まえた方が?

何かしなくては…と思うものの、寝起きでパニックになった頭では、思うように行動が出ない。 

「……悪ぃ、起こしちまったな」

だが、小声で、そっと掛けてきた聞き覚えのある声に、

「……土…かた……?」

もしや? と思いながら名前を呼べば、

「まだ4時だ。寝てろ」

銀八を宥めるように、クシャリと頭を撫でられた。

「な、何で居んだ?」

安心はしたものの、今度は別の驚きで、反射的にガバッと起き上がた。

今週の土日は一泊で合宿があると聞いていた気がするが…?

すぐにベッドヘッドのライトを点ければ、大学のサークル指定のジャージに着替えている土方が目に入った。

「今週は、合宿があるって言ってなかったか?」

「ああ、6時に駅に集合だ」

「……だったら、なんで?」

「あんな無言電話寄越されたら誰だって気になんだろうが」

そう言われても、土方に電話をした記憶はない。

「……無言電話……?」

土方に電話をした記憶はない。ないが――

目線をベッドに落とせば、自分の携帯電話が目に入った。

それを手に取り、リダイヤル履歴を見れば、0:03に、土方へ発信された履歴がしっかり残っていた。

(げぇっ?!)

「わ、悪い!」

間違えてリダイヤルを押してしまったのだろうか?

さすがにこれには、慌てて謝った。

「……合宿あんのに悪かった。迷惑かけちまって」

無視してくれて良かったのに…。

そんなニュアンスを含ませて謝れば、

「あのな、惚れてるヤツが電話の向こうで泣いてんのに、放っておける訳ねぇだろ」

それはそれは、驚愕させられる返事が返ってきた。

(……泣いてた!?)

衝撃の事実に言葉が出ない。

言葉の出ない口をパクパクさせていると、着替えを終えた土方が近付いてきた。

頬に手を添えられ、一瞬だけ掠めるように唇を奪われる。

「……ん……」

「今は時間が無ぇからもう行くけど、来週は放さねぇから」

そう囁いて土方はすぐに離れていく。

呆然としている銀八が声を掛ける間もなく、大きなスポーツバッグを肩に担いで部屋から出て行ってしまった。

鍵は玄関ポストから中に入れとくぞ…という声が聞こえて、我に返る。

ガチャン…とドアが閉まる音が響いて、やっと今の状況が把握出来た。







…わざわざ来てくれたのだ。

ただ泣いていたという理由だけで…。

無言電話なのに…・。

合宿の当日だというのに・・・。

「……うわぁ、マジかよ……」

今更ながら、かぁぁぁ!と頬が熱くなる。

誰もいない部屋、それなのに急速に熱くなった。

どうしてしていいか解らなくて、銀八は枕を抱えたままベッドの上に突っ伏す。

「……ヤバイ」

元教え子で、恋人で、身体は繋げていても無意識に子ども扱いしていた気がする。

それが――

いつの間にか大人になっていたんだと、改めて知った。

「やべぇ…惚れ直したかも……」

痛みを訴えていた棘がポロリ…と抜け落ちる感覚。

過去の痛みよりも、今の甘い痺れに呻く銀八だった。







おわり
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