終焉の鬼

□episode01.
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「へぇ……深雪くんはいい盾を持ってるね」


別れて尚、こちらを不安そうに見つめている花とかんなを尻目に見ながら真はそう呟いた。

深雪は後ろは振り返らずに答える。


「いえ、そんなことは………」

「うちの部下にしたいくらいだよ」


冗談には見えない笑みを向けてくる真に深雪は苦く笑った。


「一条様の従者ほど力はありません。九条家や和泉家など、一条様の下にはには優秀な人材が豊富ですから」

「家柄だけで才能は決まらないと俺は思うけどな」


冗談のようににこりと笑う真の言葉は笑顔ほど冗談には聞こえなかった。


「あ、教室ここか」


通り過ぎようとした教室がA組だとようやく気がついたのか、真は少し驚いたように止まった。

深雪もその隣で停止する。

真は再び不思議そうに深雪を見つめた。


「あれ?深雪くんもこのクラス?」


どうやら玄関に貼ってあったクラス表は見ていないらしい。

確かに、一条の名を持つ者はA組と決まっているから見る必要はないが。


「はい」

「そうなんだ。先に言ってくれれば良かったのに」


真はガラガラと教室の扉を開けた。

その瞬間。


「おはようございます!」
「真様おはようございます」
「おはようございます真様」


幾多の声が飛び交った。


真はその中に慣れたように入って行く。

深雪もそれに続いた。


瞬間、静寂。


真とは真逆の空気の中を深雪は慣れたように自分の席へ向かう。

一気に静まり返った教室にはだんだんと声が戻っていく。

しかしその声の質は先程のものとは明らかに違うものだった。

軽蔑、蔑み、そんな小さな笑い声が溢れる。


「……………」


深雪は黙って窓際最後尾の席に座ると、口元を頬杖で隠し窓の外を眺めた。

クス………

そうしなければ笑いに歪む口元を見られてしまうからだ。


別に自分を蔑む奴らを憎いとは思わない。
ただ、可笑しいのだ。

自分より下位の存在を蔑むことが快楽。
そんな醜い奴らを相手しているほど深雪は暇ではない。

ふと、視線を感じて教室内を見回した。


バカみたいにニコニコ笑ってこちらに手を振っている奴がいた。


深雪は奴、一条真を刹那睨むと周りが気づく前に視線を戻した。


ガラガラ。
教師の号令で朝のホームルームが始まった。



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