終焉の鬼
□Episode.08
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コンコンとノックすると「はい」と声が返ってきた。
戸を開ける。
「なんだ、深雪か」
一条というだけで一人部屋だ。
たいそうなご身分だ。
「左手動くのか?」
深雪はベット脇の椅子に腰かけた。
「痛み止め使ってるから痛くはないけど。まあ右腕が残ってよかったよ。まだ戦える」
真が軽く笑う。
「休んでてもいいけど」
「冗談」
真は側にあった刀を握った。
「俺らは負けた」
「…勝ったよ」
「負けたよ。またあいつに手を抜かれたんだ」
真が奥歯を噛みしめる。
「何で本気出さなかったの?」
真の声が震えている。
「本気だったよ」
「深雪が本気出したら俺らなんていなくてもあいつ殺せるでしょ」
真が無理に笑っている。
「あの時の深雪はこんなんじゃなかった。…深雪は何を隠してるの?俺にも言えないのか」
2人の視線は静かに交差する。
「首の怪我、もう治りかけてるんだろ?その治りの速さもあの鬼が言ってたことと関係あるのか?
゛鬼と人間の狭間゛…」
深雪は視線をそらした。
「今はまだ言えない」
「じゃあいつ言える」
「さあ」
「じゃあいつ本気出すの」
「……死にそうになった時」
真はため息をついてベッドに横になった。
「なんでそう頑ななの」
「一条にはまだ知られたくない 」
真は目を丸くした。
「俺はいいの」
「お前は俺の駒だろ?」
「深雪も俺の駒だよ。仲間が危険な時は本気出せよ。あと、深雪の実力はあの戦いでみんなに知られてると思うけど」
「だとしても、あの混乱の中で確かな情報は流れないだろうよ」
深雪は席を立つ。
「次、あの鬼に会ったら、ちゃんと殺す。怪我させて悪かった」
真はふっと笑った。
「馬鹿だな深雪は。怪我は俺が弱いせいだ。深雪に本気出させないようにもっと強くなるよ。深雪の実力を一条に知られるなんてもったいないし」
「ああ。…怪我、明日までに治せよ」
「無茶言うな、バカ深雪」
ははっと笑い、深雪は部屋を出た。
真には悪いことをした。
でも、もう少し時間がほしい。
まだ足りない。
深雪は暗い廊下を歩いた。
自室とは反対の方向へ。
警備部隊を除いて隊員たちはもう疲れで寝静まっている。
静寂のなかを1人、歩む。
向かう先は、ここよりももっとずっと暗い場所。