終焉の鬼

□Episode.08
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警備体制はしっかりしていたが、すきはいくらでも作れる。

深雪は物音を立て、隊員の意識がそちらに向いている間に軍基地を抜け出した。


軍基地の周りは廃墟となっていた。

昔生活が営まれていただろう形跡がいくつもある。

崩れかけた建物の群を抜けると、うっすらと緑がまだ残る広場に出た。

かつては公園であったらしい。


「あの木の前で…」


そう呟き、迷うことなくある方向へ進む。


何分か歩いていくと、ゆらりと人影が見えた。


深雪の歩幅は次第に早まり、ついに駆けだす。


黄金の髪が月に煌めいた。



「マリっ…」



深雪は反動のままに少女を抱きしめた。

目頭が熱い。
涙がこぼれないように深雪は必死にこらえた。


マリと呼ばれた少女も深雪にこたえるように抱きしめ返す。


「深雪、遅くなってごめんね」


深雪は首を横に振る。


マリの背から手をほどくと、白い頬に優しく手を添え、一度だけ口付けを交わした。


マリはほほ笑むと、深雪の手を引き大きな切り株の上に腰かけた。

あの約束の木だ。

切られたのか燃えたのか、原型はなかったが、それはまさしくあの木のものだった。


「久しぶりね」

「ああ」

「もっとよく顔を見せて」


マリは深雪の頬を両手で包んだ。


「少し見ない間に大きくなったわ。男の子の成長は早いわね」

「もう、マリを追い越しちゃったね」


深雪は再びマリを優しく抱きしめた。


「マリは変わらないね。身長も年も、俺だけが成長してく」

「寂しい?」

「寂しかった。でも会えたからもういいんだ」


深雪の肩の中でマリは少し俯いた。


「私のせいで深雪は一条を追い出された…つらい思いばかりさせてごめんなさい」


深雪は首を振る。


「そんなの気にしてない。マリがいればそれでいい」



「私が鬼でも?」



マリの言葉に深雪は体を離し、その紅い瞳を見つめた。


「ヒトでも鬼でもマリはマリだよ。それに俺だってもうヒトでも鬼でもない」


深雪はクスリと笑う。


「俺たちはいつだって似たもの同士だ」


マリもふふと笑った。


「本当ね」


マリが深雪の手を取って立ち上がる。


「少し歩きましょ」
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