終焉の鬼

□Episode.08
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マリと出会ったのは深雪が7歳、マリが9歳の時だった。

その頃はまだ俺も一条の端くれで、父に付き添って一条の本家にも出入りしていた。


父が一条の上役と話をしているときは、深雪は決まって離れの縁側に座っていた。


一条、は実は母方の姓で、母が亡くなってからは半分部外者の深雪を相手にする者もいなくなっていた。


だから、その日は珍しかった。



「こんなところでどうしたの?」



わざわざ深雪に話しかけてくる者がいたことが。

少しそちらを振り向き、声の主を確かめた深雪は深々と頭を下げた。


「父上を待っています、マリ様」


マリは一条で最も正統で穢れない血筋の持ち主で、次期家督とも呼ばれている存在だった。

深雪は何かの式でしか逢ったことがなく、こうして話すのも初めてだった。


「広間で待ってればいいのに」

「いえ…。マリ様、いいのですか、私なんかと話して」


マリは一条の宝のように育てられ、他者とは交わることのないように過ごしていると聞く。

異質な自分などと話していていいわけがない。


しかし深雪の心情とは裏腹にマリは深雪の隣に座った。


「顔をあげて」


深雪は従う。

マリはにこりと笑った。


「知ってるよ。あなたが深雪でしょ?」


マリが自分の名前をなぜ知っているのか少し気になったが自分から尋ねるようなことはしなかった。


「はい」


マリは深雪の耳に手を当て、小さく話した。



「いいのよ深雪、私の前では普通にしてて」



深雪は何のことかわからず首を傾げる。


「どういうことですか」

「深雪はつまらなそうな顔をしてるわ。大人はくだらない、家柄がなんだ、自分に何の意味があるんだろう」


マリはあろうことか裸足で砂地に降りた。


「私も同じ。だからあなたなら、私を分かってくれる」


深雪も手を引かれ、砂地に降りる。


「私もあなたを分かってあげられる。だから、私の前では本当のあなたでいていいの」


自分勝手で意味が分からない。

初めて会ったといってもいいような相手にこんなことをふつう言うだろうか。


でも…。



「お前、意味分かんねえ」



深雪はマリに引かれた手をしっかり握り返す。


なぜか彼女に惹かれた。
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