終焉の鬼
□Episode.08
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それからは人目を避けて時間が許す限り逢瀬を重ねた。
逢う度に思いは深まり、互いが欠かせないものになっていった。
二人の関係が知られた時は厳しく追及され、牢にまで入れられたりもしたが、関係が変わることはなかったし、逢わなくなることもなかった。
マリといる時が唯一心安らぐ時だった。
マリのことを分かりすぎるがゆえに、彼女のことを止められなかった。
深雪はマリの心が鬼に傾いていることを知りながら、そんなマリを許した。
深雪が16歳、マリが18歳の時だった。
鬼が一部の結界を破り、攻めてきた。
大方の鬼は掃討できたが、強大な力を持った指揮官たる鬼との戦闘は混戦を極めた。
「深雪様っ!!」
深雪は父につき、民間人が隠れるシェルター前の護衛を行っていた。
あらかたの鬼は始末したが、後から現れた少女のような鬼が異様な強さで、陣崩しを皮切りに形成を逆転された。
一条の猛者たちにも引けを取らない強さをほこっていた深雪も簡単に吹っ飛ばされた。
父も傷つき、息が上がっている。
減らした鬼はまただんだんと増え始め、味方の数の方が少なくなった。
「きゃっ!」
「花っ!」
花が鬼に捕まり、人質に取られる。
皆、疲弊して死を待つのみだった。
「かんな!」
足を切られたかんなを庇おうと前に出た深雪の胸が深く切り裂かれ、血があふれ出す。
「深雪様!!深雪様っ…」
花の叫ぶ声が聞こえる。
深雪の体は脱力したまま地に落ちた。
温かい血液が広がっていく。
起きろ。
まだ動ける。
動かなければ。
戦わなければ。
誰も死なせたくない。
深雪の意識は一度暗闇に沈んだ。
生きろ。
生きろ。
生きろ。
花を、かんなを、皆を守らなければ。
戦え、戦え、
もっと力があれば。
力がほしい。
もっともっと力が。
<力を貸そうか>
ドクン。
ビュッ、と一瞬のことだった。
鬼の体に線が入り、次々に崩れていく。
その場にいた誰もが驚愕し、空気が硬直した。
「深雪…」
父が真っ先に異変に気付く。
「バケモノ」
そう言った鬼たちがまた次々に切られていく。
紅いうつろな瞳で敵をなぎ倒す深雪にはもはや理性と呼べるものは存在しなかった。
「深雪!!」
父の声も聞こえない。
「深雪を止めろっ!」
父の部下たちが深雪の体を取り押さえる。
「あああっ」
深雪はその拘束もものともしない。
その姿に父は刀を抜く。
「俺が切る!離すなっ」
父が切りかかる。
「深雪様っ!」
父から深雪を守るためにかんながその刀を受け止めた。
が。
ザッ…
と、かんなの背が深雪の刀によって切り裂かれる。
「深雪様…っ」
かんながその場に倒れる。
父が絶望する姿も深雪の目には入らず、衝動に任せて刀を振り上げる。
目の前の者は皆敵だった。
父に刀を振り下ろす瞬間。
ドッ…
深雪の胸に新たな刀が突き刺さった。
そのあと、誰かに抱きしめられる。
「マ、リ…」
意識は朦朧としていたがマリだと思った。
「ころ、せ…」
自分を止められるのは、殺せるのはマリだけだと思った。
だが、なぜか頭を撫でられる。
「ごめんね…ごめんね、深雪」
マリが耳元で深雪にだけ聞こえるように呟く。
今意識は手放したくなかったが、口から息が漏れるのと一緒に意識も引いていった。
マリは深雪の意識が消失する前にもう一言つぶやく。
音が消えた。