終焉の鬼
□Episode.08
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「あのあと、マリは消えた」
深雪が呟くと、マリは少し悲しそうに笑った。
「私は鬼を選んだ」
2人は大きな切り株の元へと戻ってきた。
「そのあと、俺はマリを殺したとして一条を追放された。…マリが生きてるなんて、誰も思ってない」
「あなたにそんな濡れ衣を着せるなんて、私も最低ね」
「名前だけの地位なんかいらない。マリがいない一条なんて興味ないから、丁度いいよ。それに、今こうしてマリを抱きしめられるだけで充分だ」
深雪はマリの背に優しく手を回す。
「ねえ、マリ」
「なに?」
「なんであの時、俺も連れて行ってくれなかったの?」
マリはうーん、と一つ唸った。
「深雪をこっちに染めたくなかったから……っていうのは詭弁。………きっと、利用したのかもしれない。深雪が人間といる限り、人間の情報は筒抜けだから。…こんなこと聞いて、あなたは私と手を切る?」
深雪は軽く笑った。
「俺がマリを嫌いになると思う?」
「思わない」
「はは。マリのしたいことに俺が必要なら、俺を利用しろ。情なんてかけなくていい。使えなくなったら捨ててもいい。俺はお前のためなら死ねる」
「深雪が死んだら悲しい。深雪だけは生きて」
マリは背に回った深雪の手を解こうとするが、深雪はさらにぎゅっと抱きしめた。
「ごめんなさい。そろそろ時間よ」
「……わかってる」
深雪はマリを連れてその場から逃げ出したい衝動を抑え、腕を解いた。
マリの美しい瞳から目が離せない。
「これからのことはまた連絡するわ」
「マリ…っ」
「深雪」
マリは深雪の頬を優しく包んでキスをした。
「大好きよ」
優しい香水の香りを残して、マリは去った。