終焉の鬼
□episode01.
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「深雪、今日はここまでだ」
構えを解いて、父がそう告げた。
深雪も緊張を解いて深くお辞儀をした。
いつの頃からか現れた鬼と人間との戦争は今まで幾度となく繰り返されてきた。
増えすぎた人間を駆逐するかの如く、鬼の勢力は増し、人口は6割にまで減少した。
いよいよ焦った人間は対鬼用の武器の開発を推し進め、圧倒的に身体能力の高い鬼をも殺せる”刀”を生み出した。
それが”黒鬼”である。
鬼を刀に融合させることで出来たそれは数多の欠陥はあるものの、鬼たちに絶大なダメージを与えることに成功し、彼らの進行を阻んだ。
居住区に結界を設けられて3年、今のところは平穏な日々が続いている。
「行ってきます」
昨日入学式を終えて、今日が初登校日。
──国立第一学園。
名の通り、公認の対鬼戦闘員を育成するための学園だ。
他に第二学園、第三学園……など数々存在する学園だが、中でもこの第一学園は『武力』『学力』共に秀でていなければ入ることができない。
いわゆるエリート学校だ。
ここに通う多くは部隊隊長の子息や、金持ち社長の子息などだ。
深雪(ミユキ)は”一条”の分家という身分のせいで18歳にしてようやく入学を許可された。
「お待ちください!深雪様!」
ぱたぱたと足音をたてて二人の少女が駆け寄ってきた。
「おはようございます深雪様。今朝も早くからの稽古お疲れ様です!」
肩で息をしながら笑顔を向けてきたのが木崎花(キサキハナ)で、
「おはようございます」
無表情でぺこりと頭を下げたのが城咲かんな(シロサキカンナ)である。
どちらも深雪の従者だ。
「おはよう」
深雪は一言返すと正面を向き直って歩き始めた。
そのあとに二人が続く。
かんなは深雪の左後ろ。花は普段ならば右後ろなのだが、今日はなにやら話があるのか右側にピタリとついている。
深雪が黙って歩きながら花が話し始めるのを待っていると、花は周囲を見回すようにしてから小声で話し始めた。
「一条の動きですが……」
深雪は表情を変えずに耳を澄ませた。
「南西153キロの中型集落で雑鬼(ザッキ)と交戦中とのこと」
「第何部隊だ?」
「詳しくは………。ですが一条絢斗(アヤト)が率いていると」
「そうか」
深雪は小さく息を吐いて話の終了を合図した。
花はそれを悟り、後方へ下がる。……が、すぐさま深雪の隣へと戻ってきた。
さすがに深雪も驚いて「なんだ」と花に顔を向けた。
花はなにかそわそわした様子でじっと見てくる。
深雪は顔を歪めながら足を止め、花から少し後ずさった。
「かんな!」
何度も経験している事態が起こる前に深雪はもう一人の従者の名を呼ぶ。
かんなは目にも留まらぬ速さで自分より背の高い花を抑えた。
「深雪さまぁぁああ!!」
その瞬間花は今にも泣きそうな表情で深雪の名を呼んだ。
「なぜですか深雪様!以前は『よくやった、いい情報だ』と花の頭を撫でて下さったのにぃ……!」
深雪は額を押さえる。
その間にも花はかんなに抑えれながら深雪に手を伸ばし続ける。
「深雪様、さあ、どうか花を以前のように抱擁してください!」
「ガキの頃の話だろそりゃあ!つーか抱擁なんてした覚えねーし!!」
少し紅潮した顔を隠すように深雪は顔を背けた。
大人しくなった花をかんなが解放する。
「ったく、………行くぞ」
深雪は歩きだそうとしたが、どよ〜んという効果音が聞こえそうな程に落ち込んだ花にはそんな気力もないらしい。
深雪は振り返って「はあ」と大きくため息をついた。
花に近寄る。
「……ったくよ……。ほら行くぞ、花」
ぽんぽんと花の頭を撫で、深雪は再び歩き始めた。
ばっと顔を上げ、太陽のような笑みを浮かべた花は大人しく歩き出した。
かんなも最初は花に合わせて歩いていたが、次第に速度を上げ、深雪の隣に並んだ。
「み、深雪……さま……」
珍しくおどおどとした声をかんながあげたのでちらりと見てみると、頬を真っ赤にして俯き、制服のスカートの裾をぎゅっと握っていた。
察した深雪はもう一度「はあ」と大きなため息をつき、花と同様、頭をぽんぽんと撫でてやった。
かんなは大きく目を見開き、嬉しそうに微笑んだ。
その様子を見ていた花が駆け足で深雪の隣に並ぶ。
久しぶりに笑ったかんなの様子に安堵しつつ、三人は久しぶりに並んで学園への道のりを歩んだ。