上海夜霧之戯言

□mad
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狂い始めた歯車は、もう止めようが無い。


狂い掛けた歯車は、最早止まる素振りを見せず




彼は、ついに狂ってしまった




玉玲は、失踪した。


青幇は紅華会に買収された。


アヘンは根こそぎ奪われた。


武器も無ければ仲間も危険な目に遭った。


拳志郎しか、頼れないのに…






俺の肩を摑む大きな手から滲み出るように伝り

怖いほどの狂気を振り翳す。




骨が軋み始める。


『藩…俺はもう抑えきれない』




小さな声だがよく通る大好きな重低音は今



俺は…俺は…と、うわ言の様に囁きながら



凄まじい握力で左の肩口を摑まれている



紅のタイはいつしか綺麗に外されて机の上へ


シャツは気付かないうちに、全開だった。

ベルトは乱され、前を開かれているではないか


ありえない。



俺でも気付かないなんて…


そして



たった今、首に右手が触れる




中指と人差し指が首筋をなぞる。


それだけで、怯えている俺はいったい






如何してしまったのかというほど




弱々しく涙を堪え、悲鳴と格闘している







俺の自室の中。






窓のカーテンは締め切ってある



眩暈が起きそうな満月の眩しい月光の所為で


薄暗い部屋に…





必死に悲鳴と涙、それと躯の震えを抑える俺と

狂気とも虚無とも付かぬ表情の拳志郎が居る。









つまり、二人きり。













この状態はあまりに危険で恐ろしい。




何が青幇の総帥だ…何がやくざだ……震えが

足も肩も躯中すべての震えが止まらない







『藩、抱かせてくれ…一瞬で終わるから』

ありえない台詞をゆったりと吐き出す





今日の拳志郎はおかしい。







いや、狂っている









『一瞬だけで…』



俺が、やっと口を開いた。


自分の声に絶句したが、そのまま続けた。



『やめてくれ…俺たちは、俺たち、明友だろ?』



怯えきって震えが伴い歯切れの悪い声




まぎれもなく俺の声。







拳志郎から逃れようと泣きながら暴れる







『やめろ!頼む拳志郎…!おかしいって…』



錯乱した俺は泣きながら何度も拒絶した


何度も何度も泣きながら拳志郎の名を叫んだ



怖い。怖い。怖い。怖い…怖いんだ。拳志郎が




俺の知らない拳志郎が居て、俺を掻き抱く


痛いんだ…躯じゃない。





心が物凄く痛い…





拳志郎は紛れもない俺の大切な明友だ。


恋人でもある俺はいったいなぜこんな扱いを…
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