pale green
□夕暮れと君と
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「長野くん、」
階段を少し降りたところで呼び止められた。
振り返ると、今日一度も会っていない埼玉ちゃんが階段の上にいた。
「どうしたんですか?」
彼女が僕を呼ぶということはよほどのことなのだろう。
だって、名前を覚えていてもらえているなんて思ってもみなかった…。
埼玉ちゃんはうつむいたままだった。
微かに耳が赤い。
「あの…長野くんは…その…彼女とかいますか?」
僕は耳を疑った…。何て言った?彼女だって?
「え、?」
「あ、その、ごめんなさい!!」
「いや、そのごめんね。いきなりだったから…うん、いないです。彼女。」
「……本当ですか?」
「うん。」
彼女はうつむいてしまった。
暫くして後ろに持っていたらしい(全然気づかなかった)綺麗にラッピングされた箱を此方に向けた。
「あ、あの…僕とつ、付き合って貰えませんか?」
「えっ?」
「め、迷惑ですよね…ご、ごめんなさい!!」
そう言った彼女は今にも泣きそうだった…。
後ろを向いて走って行ってしまいそうだったのでとっさに腕を掴む。
ビックリして此方を向いた顔が可愛くてフリーズしそうな頭を必死で働かせた。
「め、迷惑とかじゃないんです。…あまりに突然でビックリして…僕で良ければ、その…喜んで。」
顔に熱を感じだけどこの夕焼けのなかなら気づかれないはずなんかて、的外れなことを考えていたら、キョトンとしていた彼女が嬉しそうに笑うのを見て、今日はとてもいい日だなんて思っている僕はなんて呑気なんだろう…
「は、ハッピーバレンタイン///」
「ありがとうございます。」
「一緒に帰りませんか?」
小さく頷いて笑いながら帰る。
こんな小さな幸せがいつまでも消えませんように、とこの聖なる日に祈らずにはいられなかった。
end