約束 〜 いつか、君に逢いに行く 〜

□第七章 シロツメクサ
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夕陽の照らす畦道を、私達は廃寺に向かって急ぎ足に進んだ。暗くなれば、灯り無しで歩くのが難しくなる。夕陽の位置を確かめながら、大股で進む銀時を追って、私は小走りに歩いた。

アジトに戻れば仲間がいて、いつも通りの、長州の浪士と水戸の藩士に戻ってしまう。川縁で追いかけっこをした、ふたりだけの時間は、もうすぐ終わりだ。

誰にも邪魔されない、二人だけの時間だった。戦や砲撃隊のことを、考えることすら忘れていた。廃寺を出てきたのがついさっきに思えるほど、一日があっという間に過ぎてしまった。時間が流れる早さは、平等ではない。悶々と悩んでいる時間に比べて、楽しい時間が過ぎるのは、なんて早いんだろう。


その時間を、少しでも引き留めておきたくて。

銀時と手を繋ぎたくて、私はわざと腕を斜めに振りながら歩いた。銀時は鈍いのか、気付かない振りをしているのか、ぼんやりと夕空を見上げながら歩いている。

彼が尋ねる。

「疲れたか?」
「ううん」
「手、振りすぎじゃね?」
「別に」

トン、トンと、手のひら同士が繁くぶつかり合う。
とうとう銀時は、呆れたように溜め息をついた。

「……ガキか、てめえは」

銀時の手がひょいと伸びたと思うと、私の手を、いとも簡単に包んでしまった。

「怒ったり甘えてきたり、忙しい奴だな」

銀時の横顔に、ほんのりと赤みがさしていた。それが夕暮れのせいかどうかは、判らなかった。

私ははしゃいで、銀時の腕にしがみついた。日溜まりのような、温かい匂いがした。
銀時の匂いだった。


今日、私はもやもやとした自分の気持ちに気付いた。それはきっと、知らない間に積み重なった、密やかな思いの束だ。

シロツメクサの花が、私の耳のそばで揺れている。枯れてしまうまで、この花は大切にとっておこうかと思う。
銀時が見せてくれた花。
この花の花言葉を、彼は知っているのだろうか。


“ 私を想って ”。



(第七章 完)
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