鬼と華

□螢夜 第二幕
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身の芯から焦がれ、燃え尽きるような夜だった。お互いの体温を思い出すように、夢中で触れあい、抱き合った。


ひとつの蒲団で、晋助と並んで眠っていた薫は、明け方に障子から射し込む朝陽に目覚めた。
ふと、からだの向きを変えると、その弾みで晋助を起こしてしまったようだ。彼は薄目を開けて薫を見て、囁くように言った。

「眠れたか」

薫がこくんと頷くと、彼は穏やかに微笑んで、再び眼を閉じた。


なんて、恵まれた朝だろう。薫は初めて、晋助に抱かれた夜を思い出していた。

昔は、晋助に惹かれていくのと裏腹に、彼がいつか遠くへ行ってしまうような不安と、少女の若い恋が目まぐるしく形を変えていくことへの戸惑いがあった。それも今は、彼の存在はかけがえのないものとなり、彼の為なら身を捧げるのも惜しくはないと思うようになった。隣にいることを許され、必要とされることの幸せを、日々感じているからだ。


故郷を捨てて、晋助の傍にいることを悔やんだことはこれまで一度もない。ただ……。

(晋助様の眼は、私のせいで……)

眠る晋助の、横顔を見る。
彼の左目には、眼球がない。代わりに、惨たらしい傷の縫痕が、額から頬骨までくっきりと刻まれていた。とても人に見せるものではないと言って、傷が塞いだ今も、彼は薫以外の前では決して包帯を外さないのだ。

その傷が自分のせいだという思いは、いくら晋助に否定されようと、消えて無くなるものではなかった。包帯の下に隠された傷痕を見る度に、薫はずっと、後悔の念に苛まれてきた。
幕府軍の襲撃を受けた際、一瞬でも早く、敵の攻撃に自分で対処していれば、晋助は目を失うことはなかったかもしれない。

もし、この先晋助が剣をとる時、その傷は必ず障壁となるだろう。


いくら悔やんだところで、過去も未来も変えられない。
頭では分かっているが、晋助の傷痕を見るたび、薫はどうしようもなく、泣きたくなるのだった。



(第二幕 完)
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